ぼっち

 教室に行くと、もうジョセフィンは席に座っていた。その両脇に取り巻きの女の子二人が座っている。薄い茶色の髪がアン、濃い茶色の髪がケイトだ。

 ジョセフィンがヴィオラにマナー指導するようになってから、少し離れていたのが、今日はガードするように座っている。

 その姿をまわりの生徒が遠巻きに眺めている。

 ヴィオラはジョセフィンの前に行くと、頭を下げた。


「あの、ご婚約おめでとうございます」


 そう挨拶すると、ジョセフィンにギロリと睨まれてしまった。


「噂を鵜呑みにするのは馬鹿がすることよ。婚約なんてないから」


 こ、怖い。ジョセフィンに集まっていた教室の生徒の視線が一斉にそれた。


「わかるでしょう。正式な発表までジョセフィン様の口からは何も言うことができないの」


 アンが口を挟む。


「私だったら、嬉しくて喋りまくっちゃうのに、ジョセフィン様は奥ゆかしいから」


 ケイトが両手を祈るように握りしめる。


「アン、ケイト、黙っていてちょうだい。ヴィオラさん、ごめんなさい。朝からずっと否定しているから、もう、嫌になってしまって。後で話を聞いてちょうだい」


 ジョセフィンが怒っていないようなので、ヴィオラはホッとして、ヴィオラの後ろの席に座った。

 そこへ、ミューラー先生がやってくる。


「今回から、キャンプに備えた授業を行なっていきます」


 え? キャンプ?

 ヴィオラはキョロキョロしたが、みんなは知っていたようだ。

 武闘会があったと思ったら、次はキャンプ。さすが、乙女ゲームだ。恋愛イベントをどんどん起こせるようにしている。


「我がハーモニー学園はこの国の将来を背負って立つ人材の育成を目標としている。知識を机上のものにとどめることなく、実践できるようにしたい。そのため、キャンプでは自分たちだけで二泊三日の野営を行い、与えられたミッションを行なってもらう」


 二泊三日って、けっこうハードだ。


「クラスごとに行き先は違うし、場所は当日の朝まで秘密だ。もちろん、このクラスのミッションが一番難易度の高いものになっている」


 まあ、子どもの頃から鍛えていた私なら楽勝だとヴィオラは余裕で聞いていた。


「それではまず、三人のチームを作ってもらう。チームができたところから、私に言ってくれ」


 え? 単独じゃないの? でも、大丈夫。


「ねえ、ジョセフィン」


 声をかけた時にアンが手を挙げた。


「先生、ジョセフィン様、ケイト、アンでチームです」

「了解しました」


 先生があっさりと認めてしまった。ジョセフィンが振り向いて、ごめんなさいというように少し頭を下げた。

 確かに先生に認められたチームを崩してまで、ヴィオラと同じチームになろうとはしないだろう。

 慌てて、まわりを見回したが、みんな親しい人と集まって、どんどん、先生に報告している。

 こうなったら、イアンに頼るしかない。


「イアン」

「ごめん、ヴィオラはジョセフィンと一緒にチームを組むと思ったから」


 もう、イアンはチームを作っていた。


「イアン、俺たちはいいから、ヴィオラさんとチームを組めば」

「あ、俺が抜けるので、ヴィオラさん、どうぞ」


 そんなイアンチームの仲を引き裂くようなこと、できるわけないじゃない。


「あ、大丈夫です」


 そう言ったが、他に入れるチームって、どこ? ああ、前世でも修学旅行の班決めとか、嫌だったなあ。最後はぼっちが集められるんだ。


「えーと、後、残っているのは」


 ミューラー先生が教室を見回した。


「ヴィオラ、トム、ピーター。こちらへ。君たちで最後のチームだ」


 トムとピーターは同じクラスでも喋ったことがなかった。どちらも目立たないタイプだ。


「よろしくお願いします」

「「よろしく」」


 トムはまっすぐな長い茶色の髪を一まとめに結んでいる。平凡な容姿だが、目は黒で元日本人としては親近感を覚える色だ。

 ピーターは同級生とは思えないほど、背も高くてがっしりとしている。茶色の短い髪は貴族には珍しいから、平民なのかもしれない。

 二人ともにこやかでとりあえず、嫌われてはいないようだとヴィオラはホッとした。

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