意味が分かると怖い話【体験談+】

緑川

分かると怖い話

 今日は一段と湿度が高く、陰鬱とした時が続く。そう頭痛を訴え出した頃、微睡んだ眼が目を開く。


 子供ならではの段差遊びの大コケも然る事乍ら、昨日の久々の行き過ぎた娯楽が絶妙な起床を招き、全力支度の中に通勤ラッシュの惨劇を思い起こした俺の頭は兎にも角にも乱雑な準備に拍車を掛けた。


 ようやく玄関口のドアノブに手を伸ばし、錆の目立つ上に軋む段をトントン拍子に降って行った先、愛想悪い隣人ゴミ出し帰りと会釈を素早く済ませ、急カーブで寝癖を直しながら駅ホームを目指した。


 何か、肝心なことを忘れてる。気がするような。


 息を切らして気まぐれに眼下へと入った、地面の疎らな模様が親の顔より見たアレを思い出させた。


「あっ、定期入れ」


 華麗な踵返しで我が家の一角オンボロアパートに順調に舞い戻る。又しても難関、施錠並みの屑扉の鎮座を事前に崩さんと豪快に上に登りながら鍵を取り出しぃ、て。


 あれ?


 指が動かない。

 

 変に視界がボヤけてるし、もしかしてこれ全部、夢だったのか。だからこんなに手際良くて、あぁ。


 そっか、そっか。


 こういうのたまに見るしな。


 はぁ、焦ったぁ。


 あの人、少しの遅刻でもうるさいからなぁ。


 ……。


 長えな。


「――ですか⁉︎」


 仄かに湿った液体が頭に広がっていく。


 それに音だけがよく聞こえる。


 隣人にそっくりな騒音に、薄らと響動めく鼓動。


 視界はずっと真っ暗闇だってのにどうでもいいものばっかりが鼓膜に送られてくるとは。にしても、こんな意識がハッキリしてるのに起きれやしない。


 あれ、もしかして。俺って、今。


「救急車呼びましたから!」


 誰曰く、あるいはニュースになっていたという。


 遥か昔のことだからか。あまり、覚えていない。だが、振り返る度に憂鬱が顳顬を触らせてしまう。

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