アイドルの君とその他大勢の私
楠 未紅
希望の光
スマホの通知が鳴る。
期待と不安が入り混じった感情、心臓がドキドキと音をたてる。
興奮する気持ちを抑えつつ、「フー」と息を吐き少し震える指で画面を開いた。
"落選"
その二文字を見てがっくりと肩を落とす。
「落ちた‥。ライブ行きたかったな‥」
今をときめく超人気アイドルの君に、私は今年も会うことはできないようだ。
モヤモヤとした晴れない気持ちを埋めるかのように録画しておいた歌番組やYoutyubeを漁る。
さっきまでの悲しい気持ちや悔しい気持ちが全てなくなったわけではないけど気がつくと笑顔になっている自分がいた。
やっぱりアイドルは偉大だ。
初めて君を好きになったときもそうだった。
ふと流れてきた動画を見て、一瞬にして目を奪われた。
楽しそうに歌って、踊って、笑って。
それが伝染するかのように、その時仕事で嫌なことがあった私の心はいつの間にかそのことすら忘れるくらい笑顔になっていた。
そして君について調べて、追いかけて、どんどんその魅力にはまっていくうちに大変な思いやたくさん苦労していることを知った。
それでもステージではそんな姿は一切見せずに笑う君に、救われていることも事実だった。本当は辛いかもしれないのにそれでも人を笑顔にするために頑張っている。
だからそんな君に直接お礼が言いたかった。会いに行ける場所、君がお仕事で一番好きだと言っていた場所、楽しい時間を共有できる場所で。
でも、私は今年もその場所には行けない。
運良く行けて特等席で見れたとしても、君は私に気付いてくれるかな?なんてタラレバを考えて不安になる。だって君は今をときめく超人気アイドル。君のことを好きな人はたくさんいて、私もそのうちの一人。たくさんの人に愛されてる君。きっと私は君の一番にはなれない。でもね、私は大好きなんだ。
辛いときも、悲しいときも君がいつも元気をくれた。何かに迷ったときも君が勇気をくれた。君が頑張っているから私も頑張れる。
いつもありがとう。
君に出会ってからモノクロだった日々がカラフルに色づいていくかのように毎日が楽しい。生きる意味を見出だせなかったこの世界に、希望の光のように生きる意味を教えてくれた。大好きな君へ私が望むことはただ一つ。幸せになって欲しい。それだけ。
画面の中にはキラキラな衣装を着て、弾ける笑顔で歌って踊る姿が映っている。
アイドルの君とその他大勢の私。
君に私の応援が届いているのかはわからない。でもこれからもずっと、いくつになっても、どんなことがあっても君は私のアイドルだよ。いつかこの思いを直接伝えることが出来る日がくることを願って。
私はまた、君を見て笑顔になるのだった。
アイドルの君とその他大勢の私 楠 未紅 @kusunoki10
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます