思いつきの決意

ガチャン!


 祖母を振り切って僕は自転車を漕ぎ出した。


「誰が……! 帰るかっ! あんな家!!」


 半ば投げやりで家を出た僕だが、持っていたのは偶然ポケットに入っていた携帯電話のみ。

 僕は少し家から離れている近くの駅まで自転車を進めた。


「コレじゃ何もできないじゃないか!」

 一度駅で立ち止まって、一応母と祖母の通知を確認してみる。当然何も送ってきていない。


「もう知るか! あんな家!!」

 そう言いつつも、僕の頭にあったのはピアノの発表会の事だった。


(本当に良いのか……?ココまで頑張って……)

 自分の心の声が聞こえて来た。でも怒りの方が上だ。当然そんなのに耳を貸す訳がなかった。


(戻らないと……でも、絶対に嫌…………!)

 どちらを取るべきか。頭の中ではわかっていたはずなのに、僕は誤った選択をしてしまった。


「確か……出発は4時だったっけ?」

 僕の頭には、もう……何も無かった。



30分後……

 とりあえず駅の外のベンチに座ってよく考えてみる。勿論どうやって戻ったらいいのか?なんてことも考えていた。しかし、やはり僕には勇気がなかった。


家出 持ち物


 自分に感心したくらいだ。僕は知らないうちに、検索画面にそう打っていた。


財布、携帯電話、タオル、充電器etc...


 無意識のうちにスマホにメモをとっていた。その時僕は、自分自身に恐怖心を抱いた。

 ふと脳裏によぎったのは、いつぞやの祖母の言葉だった。


「あんたいつか詐欺師とかになりそうで怖い」


 これは数年前、僕が引きこもりだった時に腹が空きすぎて、冷蔵庫の物を食べた事を頑なに否定して、それがバレた時の事だ。

 今思うと、僕への信頼はこの時からもう消え失せていたのかもしれない。


 そんな事を考えている内に、時計を見ると3時。僕は親に見つからない様、高架下を通って宿泊先を探し回った。

 スマホを持ったのもつい最近のことなので、友達に家を聞こうにも聞くことができない。

 何しろ僕が通っているのは私立中学。わかったところで家まで辿り着くのに一苦労だ。


 渋々親や警察に見つからない様な、安全に眠れる場所を考えた。

 

コインランドリー? いや駄目だ。あそこは確か交番に近い。


ネカフェ? 近くにない。あったとしても未成年のため追い出される。


高架下? 流石に暗すぎて怖いし危険だ。


マンションの中? 管理人いるな。ダメか

 

 残りは一つしかない。公園だ。


 それも、人通りの多いところにある、明るくて見回りが来ない、尚且つ安全な公園。

 僕は思い当たる公園を片っ端から散策していった。生憎この一週間ずっと雨。雨が凌げる場所も含めて探さなくてはいけない。


 あるはずが無いなどと思っていたが、奇跡的に見つかった。デメリットとしてはちょっと人通りが少ない事くらいだ。何より家に近い。

 でも団地に挟まれていて、凄く明るい。こんな絶好な場所は他に無い筈だ。


まぁいいか。取り敢えずココに拠点を置こう。


 さて、そんな事をしている間に、気がつくともう3時30分。野宿先を探し回るのに夢中なせいで、スマホを見ていなかった。 

 見ると、メッセージと不在着信が20件程来ていた。絶対に既読にはしたく無いため、ホーム画面上で確認する。


「早よ戻って来んかい!! 全員が迷惑しています」


「は? ピアノのやつキャンセルするん? それなら早く連絡しろ!!」


 最早脅しだ。こんなの送って来られたら余計に戻る気が失せる事に、向こうは気づいていないのだろうか。


(この人達は僕の事なんてどうでもいいんだ……)


この時になって、僕はやっと決心した。




もう二度とあの家には戻らないのだと…………

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家出少年〜ホームレス中学生〜 中条駿 @-hatomaru

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