忘れられた皇子
ひまえび
第一章……秘められた血筋
第1話……忘れられた皇子「960年、陳橋の変により後周が滅亡。7歳の柴宗訓が皇帝に即位するも、同年趙匡胤のクーデターにより禅譲され、北宋が誕生」
前書き
★登場人物
- 主人公。
-
。
-
- 北宋の初代皇帝「太祖」。
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🟦『忘れられた皇子』【地図】
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974年1月1日、夜明け前の闇は、氷のように固く張りつめていた。窓の隙間からしみ込んでくる冷気が、油煙のこもった空気と混ざり合い、離れの小さな部屋の中で白い吐息となって揺れていた。
荒く乱れた息づかいと、布団のきしむ音。血と薬草と汗の匂いが、熱気とともにむっと立ちのぼる。その中央で、
痛みは波のように彼女を襲っていたが、その黒い瞳は不思議なほど冷静であった。やがて、鋭い痛みが一際大きく高まり、押し殺したうめき声とともに、かすかな産声が闇を破った。
湿った温もりを抱き上げると、小さな体からは血と羊水の生々しい匂いが立ちのぼった。か細い指が彼女の指をぎゅっとつかみ、わずかな声が震える空気を震わせる。
この子が、
後周の皇族の血を引く者として生まれながら、その血筋を知られれば、たちまち歴史の波に呑み込まれてしまう存在であった。
李蘭は、産褥の汗に濡れた額を布で拭われながら、胸の内で静かに言い聞かせていた。
この子は隠して育てなければならない。名も、血も、すべてを。
その決意のうちに、母と子の最初の夜は明けたのである。
◇ ◇ ◇
それからの6年間、李蘭と柴風は、彼女の生まれ故郷である
春には大運河から湿った風が吹き込み、土と水の匂いが町全体を包みこんだ。夏には蝉の声が、土塀と瓦屋根の隙間を震わせていた。秋には乾いた風が市場の香辛料を運び、冬には川面に薄氷が張り、笠をかぶった船頭たちの怒鳴り声が白い息となって空に消えていった。
小さな家の縁側で、柴風は木切れを舟に見立てて遊び、母は縫い物をしながら時折、遠くを眺めていた。表向きは穏やかな暮らしであったが、その眼差しの奥には常に薄い警戒の影があったのである。
◇ ◇ ◇
980年1月1日。
柴風が6歳になったその日、家の土間には湯気の立つ粥の匂いと、焚き火から立ちのぼる炭の香りが満ちていた。外では、正月を祝う爆竹の音が遠くから微かに響いてくる。
年老いた両親は、囲炉裏の火をはさみながら、ひそひそと声を落として娘に告げた。
「
その言葉は、燃えさしの炭がぱちりとはじける音よりも、はっきりと李蘭の耳に刺さった。
火の赤い光が皺だらけの父母の顔を照らし、その眼差しには長年の不安と諦念がにじんでいた。外から吹き込む冷気が、囲炉裏の温もりを削り取っていくように感じられた。
その夜、李蘭は眠らなかった。
戸板の向こうでうなる風の音、遠くで吠える犬の声、雪こそないものの、凍りついた大地を踏みしめる足音までが、すべて自分たちを追う役人のもののように思えたのである。
さらに追い打ちをかけるように、後周の最後の皇帝であった
頼るべき柱を失い、柴氏の血筋は、散り散りになって隠れるしかない立場に追い込まれていたのである。
その厳しい現実を受け入れたとき、李蘭の胸には、ひとつの決意が静かに固まりつつあった。
◇ ◇ ◇
翌朝の空気は、いっそう鋭く冷たかった。
戸を開けると、大運河の方角から湿り気を帯びた風が吹き込んできて、土と水と、遠くの船の焦げた油の匂いを運んできた。
李蘭は、荷をまとめながら、そっと柴風に顔を寄せて囁いた。
「船に乗るけど、船酔いは大丈夫?」
息子の髪からは、まだ幼い子ども特有の、少し甘い匂いがした。柴風は事情も知らぬまま、母の表情をじっと見つめていた。その瞳の奥には、不安と期待が入り混じった光が揺れていた。
李蘭は、胸の奥で決意を確かめるように、息を深く吸い込んだ。
彼女は自らの身分を捨て、商人として生きる道を選ぶ覚悟を固めていたのである。
「ここにいても危険。もっと安全な場所を見つけなければ」
そう心の中でつぶやきながら、李蘭は息子の小さな身体を抱きしめた。
「フェン、お前は何も知らない。お前の未来のために、私たちは新しい場所へ行かなければならない」
言葉に出した瞬間、その声は自らを奮い立たせる呪文のように感じられた。
柴風は、何もわからぬまま、ただ母の胸の鼓動を耳で聞き、その心音の速さから、ただ事ではない何かが始まろうとしていることだけを感じ取っていた。
◇ ◇ ◇
夜が更け、村を包む闇が最も濃くなった頃、李蘭は柴風を厚手の上着でくるみ、ひっそりと自宅を出た。
空には雲が垂れこめ、星も月も隠れていた。足もとでは霜を含んだ土がざくりと鳴り、吐く息は白く長くのびて、すぐに闇に溶けていった。
遠くで犬が吠え、竹林の向こうからは、冬枯れの枝が風に擦れあうきしり音が聞こえてくる。どの音も、追手の足音に聞こえてしまうほど、彼女の神経は張り詰めていた。
柴風は母の背に負われ、小さな腕でしっかりとしがみついていた。背中ごしに伝わってくる母の体温は、冬の夜気の中で唯一の温もりであった。
「母さん、どこへ行くの?」
寝ぼけたような、しかし不安の混じった声が、静まり返った路地に小さくこだました。
「安心しなさい、フェン。安全な場所を見つけるわ」
李蘭は振り返って微笑み、そっとあやすように答えた。
その笑みは、冷たい風にさらされているにもかかわらず、火鉢の炭のような静かな暖かさを帯びていた。
彼女の声には、母としての愛情と、過去を捨ててでも息子を守り抜くという固い決意が込められていたのである。
やがて2人は、暗闇の中で静かに息をひそめるようにして村を抜け、大運河へ向かう小道へと足を進めていった。
◇ ◇ ◇
まだ夜の気配が残る早朝、埠頭には、湿った木材と魚、荷車の油、そして人々の汗の混ざった匂いが立ちこめていた。船頭の怒鳴り声と、荷を積み込む際に鳴る桶や木箱のぶつかる音が、冷たい川霧の中で反響している。
船がゆっくりと岸を離れると、柴風は母の袖をつかんだまま、黒い水面をのぞき込んだ。水は鉛のように重く、船縁に当たるたびに鈍い音を立てる。揺れは小さくはなかったが、幼い彼は、不安よりも見慣れぬ景色への好奇心の方を強く感じていた。
川面を渡る風は冷たいが、遠くの市場から漂ってくる煮込み料理や焼き魚の匂いが、ときおり鼻をかすめた。
李蘭は、冷えた指先を息で温めながら、川岸に遠ざかっていく淮安の屋根並みを見つめていた。瓦屋根が冬の光を鈍く反射し、その下にあるはずの過去の生活が、すでに霧の向こうへ消えていくように感じられたのである。
◇ ◇ ◇
数日後、彼女たちを乗せた船が揚州に着いた。
揚州の町は、朝から晩まで人の声と物音の渦であった。市場の露店からは油で揚げた菓子の甘い匂いや、香辛料の鼻をつく香り、干した魚の塩気が入り混じっていた。行き交う人々の衣擦れの音、荷馬車の車輪が石畳をきしませる音、物売りの張り上げる声が絶え間なく響き、耳には常に何かしらの騒音がまとわりついていた。
李蘭は、そんな喧騒の中に、かえって安堵を見いだしていた。
人が多い場所ほど、ひとりの素性は紛れやすいからである。
彼女は、
木戸は雨風にさらされて色あせ、軒先の看板は半ば剥がれ落ちて文字も判別しづらかった。家の中に入ると、長い間人が住んでいなかったせいか、埃の匂いと、湿気を含んだ古い木材の匂いが鼻をついた。
窓を開け放つと、外から差し込む光の筋の中で、細かな埃が舞った。土間には、かつて商売に使われていたと思われる大きな台や棚が鎮座し、ところどころに割れた壺や欠けた茶碗が転がっていた。
李蘭は、袖をまくり上げ、ほうきを握った。
土間を掃き、壁を拭き、使える道具をより分ける。しだいに汗がにじみ、息は上がったが、その疲労には、何かを新しく始める高揚感が混ざっていた。
柴風も、小さな手で濡れ布巾を持ち、母の真似をして棚を拭いた。指先にはざらついた木の感触が残り、時折、古い埃で鼻がむずむずし、くしゃみを連発した。
「ここなら大丈夫。北宋の権力者も探さないわ」
部屋の埃を払い終えたとき、李蘭は息子を抱き寄せて、低い声でささやいた。
外では相変わらず市場の喧騒が続いていたが、その古びた屋敷の内側だけは、ようやく「住処」と呼べる温もりを帯び始めていたのである。
◇ ◇ ◇
見知らぬ土地での生活は、決して楽ではなかった。
朝早く、まだ空が白み始めたばかりの頃、李蘭は戸口を開け、市場に向かう人々の足音に耳を澄ました。冷えた空気の中に、蒸し餃子の湯気や、粥屋の出す鶏がらスープの香りが混ざって流れてくる。
彼女は商人としての知識を活かし、近隣の村々と取引を始めた。油や塩、布地や茶葉など、日々の生活に欠かせない品を扱いながら、少しずつ信用を積み重ねていく。
店先に立つとき、彼女は客の衣服や手の荒れ具合、声の調子を素早く観察した。どの程度の金を持ち、何を必要としているのか。客の目の動きや、商品の触り方ひとつで、それを見抜く目が次第に研ぎ澄まされていったのである。
柴風は、そんな母の姿をじっと見つめていた。
布の手触り、銀貨や銅銭の重み、秤の皿がかすかに傾くときの金属音、客が去ったあとに残る香辛料や煙草の匂い。そうしたものが、幼い彼の記憶を静かに満たしていった。
「母さん、僕も商人になれるの?」
ある夕暮れ、店の片付けを手伝いながら、柴風がふと尋ねた。
戸の向こうでは、沈みゆく夕日が路地を赤く染め、風に乗って焼き魚の香りと、遠くの笑い声が流れ込んできていた。
「もちろんよ、フェン。お前が生き延びるためには、商人としての技術が必要なの」
李蘭は、柔らかな眼差しで息子を見下ろしながら答えた。
その声音には、単なる職業としての意味を超えた、「生きるすべ」としての切実さがこめられていたのである。
◇ ◇ ◇
彼女がここまでの覚悟を固めることができたのは、かつて受け取ったひとかたまりの銀のおかげでもあった。
そのとき、皇帝はやせ細った手で枕元の小箱を指さし、李蘭に託した。中には、銀1,200両が入っていた。
銀の塊が木箱の中で触れ合う、鈍く澄んだ音。
それは、ひとつの王朝の終わりを告げる鐘の音であり、同時に、母子が生き延びるための新たな始まりを告げる音でもあった。
「銀1両=銅銭1貫文=2万円」が宋代の庶民の1か月の生活費に相当すると仮定するなら、銀1,200両は確かに途方もない額である。しかし、柴宗訓が後周の最後の皇帝であったことを考えれば、息子の血を継ぐ者への養育費としては、むしろ当然の規模であったといえる。
簡易換算表
•銀1両=銅銭1貫文=銅銭1,000文
•銀1両=米1石「約150リットル」
•銀1両=塩2石
•銀1両=2万円
•銅銭1文=20円
この換算表を用いれば、作中における商取引や日常生活の描写を、一貫してシンプルに整理できるのである。
物価や生活費の感覚を現代の読者にも伝えやすくすることで、物語の中で交わされる取引や暮らしぶりに、より具体的な重みを持たせることができる。
こうして、李蘭や柴風が商いを展開するときの金額感覚は、明確な枠組みを与えられたのである。
◇ ◇ ◇
□
980年1月20日。
冬の冷たい光が、揚州の市場を斜めに照らしていた。
空気は張りつめていたが、人々の熱気がそれを押し返していた。露店には色とりどりの商品が並び、鮮やかな染料で染めた布、乾燥させた果物、山盛りの香辛料、ぶら下がる腊肉などが、見る者の目と鼻を同時に刺激していた。
生きた鶏の鳴き声、乳母車のきしむ音、銅銭の触れ合う澄んだ響き、値段交渉に興奮した声。市場はまるで、さまざまな音と匂いと色が渦を巻くひとつの大河のようであった。
その真ん中に足を踏み入れながらも、
午後1時、太陽は高くないが、広場の石畳はほどよく暖められ、足もとからかすかな温もりが伝わってくる。彼女は人波の中から、危険と利益の両方の芽を見抜こうと、鋭い眼差しで周囲を観察していた。
商人として成功するほどに、金品だけでなく命そのものを狙う者も増える。
李蘭は、自分と柴風を守る用心棒が必要だと感じていた。
そこで彼女は、腕前を見極めるために、懸賞金付きの試合を催すことに決めたのである。
市場の掲示板に、彼女はていねいに書き上げた触れを貼り出した。
木板に打ち付けられた紙は、冬の乾いた風にかすかに揺れ、通りすがりの者たちの目を引いた。
そこには、次のように記されていた。
「猛者求む。腕前を試すための試合を開催する。一等賞金100両、二等賞金50両、三等賞金30両。興味のある方は指定の場所に集合せよ」
墨の香りがまだほのかに残るその告知文には、彼女の真剣な決意が宿っていたのである。
◇ ◇ ◇
試合当日。
広場には、多くの猛者たちが集まっていた。
分厚い布の服で身を固めた者、胸元をはだけ筋肉を誇示する者、古びた刀を提げつつ、その刃のみはきちんと研ぎ澄まされている者。彼らの足もとには砂埃が舞い、待ち時間のあいだにも、手首や肩を回す筋肉の軋みが、布越しに見て取れた。
見物客たちは、冷えた空気の中でも興奮に頬を紅潮させ、湯気の立つ酒や焼き餅を片手に、広場を取り囲んでいた。歓声とどよめきは、冬空に立ちのぼる湯気とともに揺れ動いていた。
李蘭は、その熱気の中心から少し離れた場所で、冷静に参加者たちの動きを見守った。
相手の隙を突く目の鋭さ、足の運びの確かさ、力任せではなく、場の流れを読む頭の回転の速さ。それらをひとつひとつ、値踏みするように観察していたのである。
試合は順調に進んだ。
一等賞金100両を目指す者たちの闘志は、冬の空気を熱気に変えるほど激しかった。木剣がぶつかる乾いた音、素手で打ち合う拳の鈍い衝撃、砂を蹴る足音。広場全体が、闘争心と期待に満ちたひとつの舞台となっていた。
やがて、三名の特に優れた者たちが残った。
彼らは、単に強いだけではなく、その強さを制御する冷静さを持ち合わせていた。
一等賞金を手にしたのは、「
二等賞金を得た「
三等賞金を受け取った「
こうして李蘭は、信頼に足る3人の護衛を手に入れたのである。
試合のあと、彼女は選ばれた3人を別室に招き入れ、静かな空間で契約の場を設けた。
外の喧騒が遠くに聞こえる中、薄暗い部屋には、墨と紙の匂い、そして汗の残る衣の匂いが漂っていた。
机の上に置かれた契約書には、年俸60両の文字が記されている。
李蘭は3人を順に見渡し、まっすぐな視線で言葉を告げた。
「私たちの安全を守ってくれることを期待している。報酬は約束通り支払うが、忠誠心と信頼が何よりも重要だ」
その声は、静かでありながら揺らぎがなかった。
張剣豪、孫智遠、王力山は、黙ってうなずき、それぞれの胸に手を当てた。彼らは、目の前の女商人がただの金持ちではなく、何かを背負ってここに立っていることを、直感的に感じ取っていたのである。
こうして、李蘭は揚州での商業活動を続けながらも、安心して暮らせる環境を手に入れた。
新たに雇われた護衛たちは、彼女と柴風を守るために日々鍛錬を怠らず、その存在は店の前を通る客たちにも、目に見えぬ威圧感として伝わっていった。
護衛たちが背を預けてくれているという事実は、李蘭に大きな自信を与えた。
彼女は、もはや逃げるだけの母ではなく、自らの手で息子の未来を切り開こうとする一人の商人として、堂々と市場に立つことができるようになっていたのである。
◇ ◇ ◇
後書き
後周の皇族として生まれながら、
◇ ◇ ◇
□時代背景①
959年、
しかし、幼い皇帝のもとでは政治は不安定となり、実権は自然と軍事を握る者たちに移っていった。すなわち、
960年正月初一(1月31日)、
この脅威に対処するため、周の宰相・
しかし、趙匡胤は「兵力が不足している」として出撃を引き延ばし、その裏側で、静かに権力掌握の準備を進めていたのである。
同年2月2日(正月初三日)、趙匡胤は大軍を率いて
ここで彼は兵士たちを前に、「今の皇帝は幼くして統治できない。私が天子となれば国家を守ることができる」と説き伏せた。
その説得とともに行なわれたのが、彼に
ここに、「陳橋の変」への流れは固まったのである。
◇ ◇ ◇
□時代背景②
黄袍をまとわせられた趙匡胤は、その場では「自分をこのように扱うのは、命令に従わせるためである」と弁明したと伝えられる。
しかし兵士たちの忠誠を確保した彼は、その勢いのまま兵を率いて
城の守将であった石守信や王審琦らは、新たな流れに逆らうことなく城門を開いた。
これにより、幼い恭帝・柴宗訓は禅譲を余儀なくされ、趙匡胤は北宋を建て、国号を「宋」と定めて開封を都とした。恭帝は降格されて鄭王となり、房州(現在の河南省十堰市房県)に封じられたのである。
この「陳橋の変」は、血なまぐさい争乱を伴わず、極めて滑らかに後周から北宋への政権交代を実現した出来事として知られている。
趙匡胤は軍規を厳格に保ち、民衆に対する略奪や暴行を禁じたことで、広く支持を得ることに成功した。
そのため、五代十国の他の改朝換代とは異なり、大規模な混乱や殺戮を避けることができたのである。
趙匡胤の指導の下、北宋は短期間で勢力を拡大し、後周の残党や反抗勢力を次々と鎮圧した。
こうして北宋は、約320年にわたる安定と繁栄の基礎を築くこととなった。
特に、「剽掠を禁じる」といった厳しい命令を兵士に徹底させたことで、軍の行動は比較的秩序立ち、民衆の信頼を勝ち得ることができたのである。
「陳橋の変」は、中国史において「ほとんど血を流さずに大王朝を樹立した稀有な例」として高く評価されている。
趙匡胤の政治的洞察と戦略の見事な実践例として、後世に語り継がれてきた出来事であり、その結果として北宋は、五代十国の混乱から抜け出し、長期にわたる安定と繁栄を享受することになったのである。
◇ ◇ ◇
―――――――――――――――――
前篇:
959年、
960
しかし、趙匡胤は「兵力が不足している」として出撃を遅らせ、裏では自らの権力掌握の準備を進めていたのである。
同年2月2
弟の
後編:
黄袍を着せられた趙匡胤は、皇帝を名乗ることになったが、その場では「自分を命令に従わせるためである」と弁明したと伝えられる。
兵士たちの忠誠を得た彼は、そのまま兵を率いて
これにより、
趙匡胤は軍隊の規律を厳しく保ち、民衆への暴虐を禁じることで、広範な支持を獲得した。そのため、五代十国時代の他の改朝換代とは異なり、大きな混乱や殺戮を伴わずに権力を掌握することができたのである。
彼の指導のもと、北宋は短期間で勢力を拡大し、後周の残党や反抗勢力を鎮圧した。
こうして北宋は安定した統治を確立し、約320年間にわたる繁栄を続けることになった。兵変の際、趙匡胤が「剽掠を禁じる」といった厳しい命令を出したことで、兵士たちの行動は秩序正しく保たれ、民衆からの信頼を得ることにも成功したのである。
この「陳橋の変」は、中国史において「不流血で大王朝を樹立した奇跡」として評価されている。
趙匡胤の高度な政治的洞察と戦略が結実した事例として、後世に語り継がれており、この兵変によって北宋は五代十国の混乱から抜け出し、長期にわたる安定と繁栄を享受することになったのである。
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