赤い制服の私

只石 美咲

1.ファースト・チェンジ ~男であること、女であること~

健太と翔がニヤニヤしながら、いつものように近づいてきた。


「お前、本当に女みたいな体してるよな。」


「それな、それな。」


俺は二人を一瞥して無視した。


ねた顔も可愛いですねぇ。」


にらまれると俺ら目覚めちゃうかもしれないから、やめろよ。」


二人は笑いながら俺の体に触れてくる。


華奢きゃしゃな肩ですね。」


「これにチンコ付いてると思うと、変な気分になるぜ。」


健太は俺の肩を触りながら、首を羽交い絞めにするように腕を回してきた。




「触るな。」



俺は払いのけようとするが、健太の腕は力強く、振りほどけない。

もがけばもがくほど、健太の顔は「してやったり」という表情になっていく。


俺は力を込めて抵抗してみるが、やがて諦めてしまった。


「お? もう諦めるのか? 力まで女みたいに弱いなんてな。」


力を抜いた俺を見て、健太は嘲るように言った。


悲しいけれど、力が足りないのは事実だ。


見た目も女っぽく、腕力まで女のよう。


俺は自分の体が大嫌いだった。


「本当に男なのか、チェックしまーす。」


翔が嬉々として俺の股間に手を伸ばしてきた。



「おい! やめろ! お前ら!」



俺は力の限り暴れて抵抗するが、健太はそれ以上の力で俺を押さえつける。


そもそも抵抗が無意味なことは、もう分かっていた。


必死に抵抗すればするほど、相手の嗜虐心が刺激され、俺へのからかいがさらにエスカレートするからだ。


「声変わりはまだですか、亜咲ちゃん?」


「あれ? 顔赤くなってるけど、もしかして興奮してるのかな?」


俺は小さな声で、


「本当にやめてくれ。もう飽きてくれよ、いい加減。」


と呟いたが、


「聞こえないな。」


「いくら女みたいな声が嫌いでも、小さい声じゃ分からんよ。」


と、二人は下品な笑い声を上げた。


身動きの取れない体をじたばた動かしてみても、意味はない。


滑稽さが増すだけで、余計に面白がられるだけだ。


自由にできない体を触られ、それに抵抗できない自分に、劣等感と自己嫌悪があふれ出し、視界がゆがんだ。


ここで我慢できなくなれば、こいつらを喜ばせるだけだ。


俺は唇を噛み締め、目に力を入れた。



「ちょっと二人とも! 亜咲が嫌がってるでしょ!!」



その声と同時に、体を圧迫していた力が消え、俺の体から力が抜けた。


緊張が解けたのか、瞳から涙がこぼれ落ちた。


怖かった。


いつも通りなのに、この感情には慣れない。


「ちっ、お仲間の登場か。よかったな、亜咲、いや、亜咲ちゃん?」


「泣いてやんの! 夕夏ゆうかに慰めてもらえよ。」


健太と翔は俺と夕夏を見て、冷やかすように笑いながら教室を出ていった。


「大丈夫?」


夕夏が手に持ったハンカチで、俺の頬を優しくトントンと拭ってくれた。


俺は何も言わず、ただそこに立っていた。


そんな俺を見て、夕夏はさらに心を打たれたのだろう。


慈愛に満ちた目で、頬が乾くまで俺の肩をさすってくれた。


すると、3人ほどの女子が俺を囲むようにして集まり、口々に健太と翔を罵り始めた。


そして俺を慰めてくれた。


代わる代わる頭を撫でられ、肩をさすられ、腰に手を添えられた。


手の温もりに安堵感が広がる一方で、情けなさが全身を包み込んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る