第20話元凶は音信不通になり番の温もりを貰う

言わせると約束させて一ヶ月後、叔父とケニーが現れた。


男のことを見ると結末はお察しだが。


家に招くとケニーが叔父に話すように足す。


のろのろと顔をあげる男は一ヶ月前より痩せている。


相当、なにかあったのだろう。


「結果は」


ファルミリアがどうなったのかと聞き取る。


「……音信不通になった」


「そっか、まぁ、妥当だね」


その人の家に行っても家から出てこないし、叔父との付き合いを拒んでいるとか。


「でも、叔父さんが安易にアイデアを出すって約束したんだからその人に叔父さんがなにか考えてあげて。もう時間はいっぱいあるんだもんねっ」


「え、え、そんな。許してくれるんじゃ?」


「あなた!許してもらえないって言ったでしょう!」


「そんな……許し欲しい」


「言葉ではなんとでも言えるからいいよ。うん。叔父さん。私はあなたを許す」


「く」


どうやら本気で上っ面だけの許しと感じたらしく、頭をくしゃくしゃして項垂れる。


「経営権は戻さない。二度あることは三度ある。よって、あなたに無駄に余裕があると余計なことをする性質みたいだからそのまま、忙しく転げ回れば?」


「そ、んな。来年はルルノスノーラとシャインカッウに行く予定だったのに」


どちらも金持ちの保養地として有名な観光地。


前なら余裕でいけたけど、現場で働かなくてはいけなくなった叔父にそんな時間はなくなった。


優雅に酒場で飲むという行為もできなくなりつつある。


慣れたらできるけど、それでも時間は短く人と話し込むということもろくにできなくなったと、ケニーから聞いていた。


そうすれば余計なことを考えたり、人に手を貸す行為をする余裕もないという自分なりの励ましだ。


叔父はどうやら、時間と心に余裕があると人を世話することをし始めるのだな。


「よかったね」


「よくない。よくないぞ。もう経営に口を出せないなんて」


「そもそもあの商品は別に叔父さんが考えたものじゃないし、初めからなかったと思えば?叔父さんいわく、アイデアは湯水みたいに出てくるから叔父さんなら簡単になにか発売すればまた返り咲けるでしょ?」


「っ!」


人にアイデアを軽々しく頼んできたことを暗に当てこする。


叔父はぶるりと震えて、ケニーを見たが彼女は首を振り、諦めてと伝えた。


「トゥバと言ったか、お前」


ディアドアはずっとなにか言いたげにしてきたらしく、今になって叔父に言おうとしていた。


叔父はびくっと肩を揺らす。


番に迷惑をかけたら家族だろうと反応をするのはこの世の常識。


「な、なんでしょう」


「お前、前回も今回も助けられたよな?なら、ファルミリアに礼と謝罪をしろ」


「あ」


叔父は初めてそれに至ったと顔が変化する。


「やれ!」


ディアドアが、叔父の衣類部分の胸ぐらを鷲掴み爪先を残して引き上げる。


「ぐぅ!?」


「言えるよな?」


叔父は苦しそうだったが誰も助けるために動くことはない。


「わ、悪かった。悪かった。騙されてたのは私だった」


「はぁ。叔父さん。うちに二度と来ないで。ケニーさんはうちに来てもいいけど、叔父さんのことは一族に伝えてあるから」


前回でも揉めたのに、今回のことでもうあいつは、と怒っている血族が増えた。


前回の時、かなりの血族からお金を融通してもらって倍にして返したが、返された時にあまりにニコニコしていてアイツは反省してないぞ!と一族の人達を可燃させたことを叔父はちっとも気付いてない。


今回も姪に尻拭いさせようとしたと親戚達が、叔父のところに続々現れることが決定している。


「叔父さんは今回も、年下の子供にたかる一族の恥だってさ」


「ひっ!」


叔父は遂に実感したのだろう。


人を怒らせていたことに。


確かに儲かったあと、なんだか性格がイマイチ直ってないなぁって。


「うう、うううう」


泣き始めた男は、ディアドアに椅子に放り投げられてもまだ泣く。


「ファルミリアさん」


ケニーが謝ろうとしたが首を振る。


夫の性格に謝る必要はない。


「ケニーさんは一族の宴会の時、くることがあったら私と一緒にいてて。私は一族の中では末裔だから」


「ありがとう。あまり出ないだろうけれど」


叔父が魔法トランプについて親族達に話している間、その妻はあまり話さないようにと伝えていたのに無視して話し続けて、燻らせたのは叔父。


話しても聞かない相手に、なにをどうしても無駄なのだ。


止めようとしても、止まらない車みたいなものである。


二人はトボトボ家から去る。


この後、母のところに寄るらしい。


元婚約者について怒っていた叔父も、別の件で人に対して怒らせていた。


似た気質の人ってこんなもの、なのかもしれない。


帰った夫妻を見送り、ディアドアに後ろから抱き支えられて座る。


「ありがとう。私じゃ背的にあの人をぶら下げられなかったから」


「おれの方が誰よりも背が高いからな」


「名シーンだったよ」


「お前が教えてくれたから再現できた。おれも楽しかったぞ」


「私もノリノリだなって思ってたよ」


「ははっ」


彼は二人きりの時間で、のんびり会話している。


「あ、ねえ。魔法トランプのこと言うの忘れてたけど平気?なにか心情に変化はある?」


魔法トランプは大流行したもので、言わずともその経営者は金持ちとわかる。


「ない。生活は元から余裕そうなのは見ていてわかる」


裕福でなかったら、元婚約者がいる村に居続けることしかできなかったろう。


やはり、ある程度はお金を持っていればなんとでもできるね。


番の温もりに、一人きりならきっと泣くくらいはしていたなと、冷静な頭が叔父夫妻の最後の姿を思い出させる。


今は彼がいるから心は落ち着く。


温もりに目を緩く閉じた。

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恋人に裏切られ番不信になった私の心を溶かして甘く抱きしめてくれたのは リーシャ @reesya

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