第7話 研究


「適当な場所に腰を下ろしてくれ。今日の研究は、基礎的な外部データを取るだけだから。」


ラファエルはヴィクトルに続いて、再び先ほどの部屋に入った。ヴィクトルはそう言いながら、テーブルの上からラファエルには判読不能な文字が書かれた紙の手稿を手に取った。


外部データ?


ラファエルは不安げに腕を抱きしめた。背後の扉が再び自動で閉まり、部屋はたちまち静寂に包まれた。


この人間はいつも、理解不能な言葉を口にする。


「研究」だとか「データ」だとか、竜語には存在しない、意味不明な単語ばかりだ。そのほとんどは、ヴィクトルが意味の近い単語で代用しているだけで、どうしても見つからない場合は、ナリ語をそのまま音訳しているのだろう。


「ぼうっとしてないで、後ろの椅子に座れ。」


「……」


ラファエルは無言のまま、背後の木製の椅子に腰を下ろした。


すると、目の前の男は、部屋の四隅に立てかけられた黒い棒状の物体に手を触れた。すると、透明な覆いの内側から光が放たれ、彼女は思わず飛び上がった。


魔法ではない……。虫か、それとも石のようなものが発光しているのか? あるいは、彼が蒐集した亜人の魂が光を放っているのだろうか?


以前、母親から聞いたことがある。竜人の魂は灼熱を帯びており、光を放つと。毎年、野外で道に迷った竜人を故郷へと導くのだと。もっとも、彼女自身はそれを目にしたことはなく、真偽のほどは定かではない。


彼女は知らない。光が彼女の全身に降り注いでいるのは、ヴィクトルが研究対象をより詳細に観察するためだけだということを。


彼は微かな光を放つ片眼鏡を装着した。特殊な魔法物品で、生物の体内の魔力の流れを可視化することができる。亜人の中には、体内の魔力循環によって身体的特徴が変化する種族もいる。


竜人もそうなのかどうか、確かめてみたかった。


西大陸では竜人種を直接研究する機会は稀だ。彼は南大陸を駆けずり回り、ようやくこの赤い竜人種を見つけ出した。他の竜人の話によれば、この色の竜人は極めて珍しいらしい。もしこれが、いわゆる「赤竜女王」でないとしても、それはそれで仕方がないと諦めるしかない。


「今から、動かないでくれ。」


彼は事務机の傍らに立てかけてあった移動式の小さなテーブルを引き寄せた。


上には、ラファエルが見慣れない道具がいくつか置かれている。だが、その鉄製の物体が灯火の下で鈍く光るのを見て、彼女はそれが何らかの拷問器具ではないかと疑念を抱いた。


これが、研究というものなのか?


彼女は奥歯を噛み締めた。


ヴィクトルが巻尺を取り出した瞬間、彼女は覚悟を決めたように目を閉じた。その様子に、ヴィクトルは一瞬戸惑ったものの、表情を崩すことなく、淡々と作業に取り掛かった。


まず最初に行うべきは、彼女の基本的な身体データを計測することだ。


例えば、身長、体重、尻尾の長さ、年齢など。


「お前は銃を恐れているな。」


冷たい金属が突然太腿に触れた感触に、彼女の瞼がわずかに震えた。しかし、男はまるで断定するように、平坦な口調でそう言った。その言葉に、彼女は再び目を開けた。


「もし、あれで体を撃ち抜かれたことがあれば、お前も芋虫みたいに……」


「芋虫?」巻尺がわずかに引き出され、ヴィクトルの真剣な表情が光を反射した。


「いい喩えだ。」


「……」


ラファエルは歯を食いしばり、手の爪を握り締めた。目の前にいる憎らしい人間を八つ裂きにしてやりたい衝動に駆られた。


竜人の鱗は全身を覆っているわけではないが、それでも体の大部分を覆っている。


膝から腹部にかけては鱗がないようだが、今は麻の服を着ているため、ヴィクトルは確信が持てない。


ヴィクトルは彼女のふくらはぎの鱗に目を落とした。その中で、他の部位よりもわずかに色が薄い、小さな円形の鱗が彼の目を引いた。


彼はそっと手を伸ばし、彼女のふくらはぎを掴んだ。


温かい鱗越しに、ふくらはぎの筋肉の形状が手に伝わってくる。竜人の鱗は、ザラザラとした感触ではなく、非常に滑らかで心地良い。ただし、成体になると鎧のような保護機能を持つ鱗は例外だが。


「ん……」


ラファエルは少し不自然な呼吸を漏らし、掴まれた右足の爪をわずかに丸めた。


「美しい鱗だ……。ここは銃で撃たれたことがあるな。この鱗は、新しく生えてきたものだ。」


「ふん……忌々しい銃さえなければ、人間どもは私を捕らえることなどできなかっただろうし、全員、死んでいたはずだ……」


彼女は舌なめずりをした。碧眼は獣性を帯び、まるで獲物を貪り食らわんばかりの獰猛さを湛えている。彼女を捕らえるために、人間は十数人の銃を持った奴隷狩りを差し向けた。彼女は彼らの四分の三を殺したが、それでも捕まってしまい、その後「特別な待遇」を受けたのだ。


彼女は、人間たちが自分をどれほど痛めつけたか、ペンチで鱗を剥ぎ取られた時のこと、刃物で皮膚を切り裂かれた時のことを、鮮明に記憶している。


ラファエルの瞳孔は再び縦長の線になった。目の前の人間を殺せば、故郷に帰れる。人間たちに復讐して、彼らが犯した全ての罪の代償を払わせなければ……。


彼女の殺気はあまりにも露骨で、ヴィクトルの手の中で鱗が逆立ち始めた。


ラファエルの感情が高ぶると、鱗はそれに呼応するように逆立ち、彼女の感情を表現する。


あの蒸気は一体何なのだろうか。後で詳しく調べてみよう。


彼は手を伸ばし、逆立った鱗を優しく撫で鎮め、傍らのテーブルから銀のナイフを手に取った。


彼が武器を手に取ったのを見て、ラファエルは竜のような咆哮を上げた。


「グォォォ!」


ヴィクトルは手に持ったナイフから急激な温度上昇を感じ、まるで熱湯の入ったヤカンの取っ手を掴んでしまったかのように、思わず手を離してしまった。


彼女の威嚇に臆することなく、ヴィクトルは彼女に正対して座り直し、平然とした表情で言った。


「夜になると、ここや撃たれた場所が痛むだろう? 違うか?」


ラファエルの瞳孔が、わずかに開きかけた。


「お前は撃たれた後、簡単に弾丸を取り出されただけだ。」


「亜人の傷の手当てを知らない人間どもだ。お前の傷を治療した者の中に、まともな医者は一人もいなかったのだろう。」


「そのせいで、右足と左手に古傷が残ってしまった……。雨の日、体を動かす時、鱗が動く時、その下の損傷した筋肉に触れて、ひどく痛むのだろう? 違うか……?」


「お前が私を襲撃して失敗したのは、体の動きがぎこちなかったからだ。右足が左足に追いつかず、左手が右手に追いつかない。動きが遅すぎて、隙だらけだった……。」


「お前は傷を抱えたままだ。私の治療なしには、私を殺すことなど不可能だ。」


ラファエルが意識を失っている隙に、彼は銀のナイフで色が薄くなった鱗をそっと剥がした。


すると、その下の皮膚は黒紫色に変色しており、隣の白い肌とは明らかに異なっていた。


「そんなこと、あなたには関係ない! 私はあなたを殺す! あなたの皮を剥ぎ、あなたの血をこの大地に塗りたくってやる! あなたは、この世で最も苦痛に満ちた死に方をするだろう。必ず、実行してみせる!」


ラファエルの鱗は再び逆立ったが、今度は蒸気を噴き出すことはなかった。


そこでヴィクトルは、再び彼女の右足を掴んだ。嘲笑を浮かべながら、銀のナイフを掲げた。


「できるものなら、やってみろ、小竜。」


銀のナイフの刃先が、腐敗した筋肉に食い込んだ。


ヴィクトルに強く握られた右足を除いて、彼女の体は激痛に身をよじらせた。まるで、あの弾丸が体に撃ち込まれた日を追体験しているかのようだった。だが、今回の痛みはさらに激しく、骨髄にまで突き刺さるような痛みだった。


奴隷商人どもは、人間よりも身体能力の高い亜人を戦闘不能にするために、一体どんなものを弾丸に塗りつけていたのだろうか。


内部の筋肉は、骨まで腐りかけている。


「ブツッ、ブツッ、ブツッ!」


銀のナイフが細かく震え、ラファエルの尻尾が床を激しく叩きつけた。


だが、ヴィクトルの左手はまるで鉄の鉗子のように彼女の右足を固定し、微動だにさせなかった。


「殺してやる!」


「絶対に殺してやる!」


「殺……し……て……やる……」


「う……」


右足から左手へ。治療が進むにつれて、時間の経過とともに、殺意に満ちた脅しは、次第に泣き声混じりのものへと変わっていった。一滴、また一滴と、鮮血が彼女の体から床に滴り落ち、そして、熱い蒸気を噴き出し始めた。


ヴィクトルは、心の中で悲鳴を上げた。


床が……。


しかし幸いなことに、治療はついに終わった。ヴィクトルはガーゼと薬剤を手に取り、彼女のふくらはぎに何重にも巻き付けた。


実際には、それほど時間はかかっていない。外からはまだ、亜人娘たちが戻ってくる気配すらない。だが、この痛みは一秒たりとも耐え難い苦痛だった。麻酔なしの状態では、なおさらだ。


「……チャンスは、与えてやる。もし、お前がそれを掴み取れるならな。」


それは、彼女が口にした自分を殺すという言葉に対する返答だった。


ヴィクトルは椅子にぐったりと凭れかかったラファエルを見下ろし、彼女の殺意のこもった眼差しを意にも介さず、巻尺で残りの身体データを淡々と計測し終えた。


「亜人の身体は回復が早い。すぐに治るだろう。お前の刺客ぶり、期待しているぞ……。今夜の研究は、これで終わりだ。もう、戻っていいぞ。」


彼は立ち上がり、血で汚れた銀のナイフを傍らの皿に放り投げ、清水で手を洗い、傍らの灯りを消した。


灯りは消えたが、ラファエルの目にはまだ、チカチカと緑や赤の残像が焼き付いていた。男の背を向けた後ろ姿とともに、彼女の脳裏に深く刻み込まれた。


「殺……し……て……やる……」


「ああ、頑張れよ、竜のお嬢さん。」



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