第26話 赤い手型
白い布にベチャベチャと不気味な色のペンキが垂らされていく。それを無造作にのばす。
「お前絶対これ似合うってー! 俺特製、『ゾンビシャツ』! 」
「まあ、俺何でも似合っちゃうから? そういう奇抜なシャツも着こなしちゃうよね」
「うーわこいつウザッ」
教室の真ん中の方はワイワイガヤガヤ楽しそうで、仲睦まじくて何よりである。
私は、真っ赤なユカの手型を丁寧に切り取りながら『ゾンビシャツ』などというものができていく様子を眺めていた。
「ああ、血を見ると身体が疼くのじゃ」
ユカは赤いペンキがベッタリついた自分の手を見て舌なめずりをしていた。
「ドラユカさん。さっさと手を洗ってきて手型を切るの手伝って」
「いやじゃ! ワシは貴様の血を吸うのじゃ! 」
ガバッとユカが腕を広げて、私に襲いかかる。薄い制服の上から、二の腕に鋭い刺激を感じた。
「ひあっ」
思わず変な声が出る。
ユカが鋭利な白い歯で私に噛みついていた。よく見るとユカはいつのまにか先端の尖ったつけ歯をしており、私の腕に歯の先端を当てたまま、上目遣いで私を見てニッと笑う。
「驚いたか? 人間よ」
まさか、ユカに一本とられる日が来るとは。
「これで驚かない人いないでしょ」
ちょっとだけ強がっておいた。
じゃれ合ってるのがサボっているように見えたのだろうか。クラスの女子の一人、相田さんが私に声をかけた。スカート短い系の人種である。
「ねえ、天川さん。今ひま? 一緒に買い出し行ってくれない? 」
たしか、羽瑠と仲のいいグループのメンバーだ。だがしかし、私は話したことがない。
話したこともない人と買い出しまでの道のりを共にするのは、コミュ障にはしんどい。だから私は、至極真っ当な意見を述べた。
「ごめん、今小物を作る作業してて、買い出しならユカが……」
ユカはゆっくり首を振って、流れるような動きで私の手から厚紙を切っていたハサミを奪った。
「サノよ、ワシに気を使わんくていい。元々この作業はワシ行っていたのでじゃ。サノはゆっくり買い出しに行ってくるといい」
「え、は、ちょっとユカ!? 」
最初から、紙を切るのは私が担当している。つまり、ユカが今並べ立てた言葉は全部嘘っぱち。
ついでに、行ったら気の休まらないであろう買い出しに『ゆっくり』という表現を使うのにも異議を唱えたい。
訂正しようとするが、ユカは白々しく、私が途中まで切っていた厚紙をさも忙しそうにハサミで切っていた。
「そういうことなら、じゃあ天川さん来て。一人だと大変だから」
「あ、はい……」
こうして私は半ば強制的に、あまり話したこともない強引なクラスメイトと買い出しに行くことになったのだ。
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