第19話 お団子少女
ホームルームが終わると、案の定、羽瑠の周りには人が集まっていた。話し声が離れた席の私のところまで聞こえてくる。
「八坂さん? だよね。話したことなかったよねー。せっかく同じクラスになったんだし、仲良くなろー」
「ねね、連絡先きいていい? 」
「チンゲンサイ好きなの珍しいよねー。面白ーい」
だけど去年、羽瑠の周りにあんなに人は集まっていなかった気がする。もしかして自己紹介の内容は去年と違うのだろうか。
「八坂さんが気になるんでござるか? 」
「あ、うんまあね‥‥‥」
あまりに視線が露骨だったのだろう。一緒にいたユカに勘づかれてしまった。
「八坂さん、去年は『趣味は一人でチンゲンサイを食べることです』って言ってたんでござるよ。きっと何か心変わりがあったんでござるね」
「え、ユカ去年の自己紹介覚えてるの? 」
「もちろんでござる。全員分、もちろんサノ殿がかんでいたのも覚えているでござるよ」
「ユカ、そういうのは覚えてなくていいんだよ」
ユカはニンマリ笑った。
「いやでござる。ずっと覚えているでござる」
ユカは本当にずっと覚えていそうだ。
私は人に囲まれている羽瑠から目を逸らした。
「ユカ、暇だしナオのクラス行ってみる? 」
「行くでござる! 」
ユカは勢い良く返事した。
ナオがいる二年三組は、隣の教室である。目立たないように開いたドアの隙間から中を覗く。地元のこの学校に同じ中学出身の友達も多いナオのことだから、孤立していることはないだろう。
案の定、ナオは近くの席の女子と男子も交えて、楽しそうに談笑していた。
「さすがナオ殿。拙者らが入り込む隙もないでござる」
「だねー」
軽く挨拶するか、それともこのまま大人しく退散しようか迷っていると、ナオがこちらに気づいて手を振ってくれた。ナオと話していた子たちもつられてこっちを見る。
思ったより視線が多く集まったのでちょっといたたまれなくなりながら、手を振り返した。
ナオの前の席に座っている、頭の上に二つお団子をのせた少女が首をかしげつつナオに何か言っていた。ナオは笑顔で頷いている。
ふいに、ユカに制服の袖を引っ張られた。見ると、めちゃくちゃ悲しそうな顔をしている。
「サノ殿、そろそろ教室に戻るでござる。きっと、拙者らはこの世界に長く留まるべきではないんでござるうう」
「そ、そうだね‥‥‥。じゃあ行こっか」
再度ナオに手を振り、横移動で自分たちの教室に戻ろうとしたとき。ナオと話してたお団子少女が、小走りで駆け寄ってきた。
「ねえ、あなたたち待ってよ」
「な、何ですか‥‥‥? 」
「ナオの友達なんでしょ? 友達の友達は友達! 友達になろ? 」
いきなり『友達』を連呼されて、ちょっと頭がこんがらがる。目の前の少女は愛嬌のある丸い目をキラキラ輝かせて、混じりけのない笑みを浮かべていた。
その純粋さは、ちょっとユカに似ている。
「私で良ければ、もちろんいいよ」
「も、もちろん拙者も大歓迎でござる! 」
特に断る理由もなかったのでそう答えた。
「やった! 私、高校で全員と友達になるのが夢なんだ! だってさ、きっとみんな誰かしらとは友達でしょ? 例えいがみ合っている人がいたって、その線を繋いでけばおっきい友達の輪ができるはずだと思うんだ! 」
「な、なるほど‥‥‥」
随分と大きな理想を語る人だなと思う。普通は、そんなん無理だろって諦めてしまうと思う。だけど、彼女の目は、それを絶対叶えられると信じていた。
脆い光を詰め込んだ幼気な瞳を爛々と輝かせて、恥じることなく宣言するお団子の彼女は、とても眩しく見える。だって、誰にだってできることじゃない。少なくとも私には。
いつのまにか、ナオがお団子少女の後ろに立っていた。
「この子ね、この春から転校してきたらしいんだ。だから私もさっき初めて話したんだけど、面白いし良い子だから仲良くしてやって」
「そうなんだ‥‥‥」
それでもうあんなにクラスに馴染んでいるのか。本当にすごい。
「えっと、私は天川桐乃。よろしくね」
「拙者は舘野ゆかり! よろしくでござる! 」
ユカは人見知りだが、私の背中にちょっと隠れつつもちゃんと挨拶をした。
「私は
新学期早々、元気な友達が増えた。
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