第17話 春休み、そして新学期

 休みの期間の諸注意を受けながらも、クラスはどこか浮足立った空気だった。

 

 たぶんみんな、春休みはどこに遊びに行くかということしか考えていない。


 それにしても、私ももう高校二年生かと思うと感慨深い。長いようで短い一年だった。初めてこの学校の制服に腕を通したのが一年前だということがにわかに信じがたい。


 このクラス全員との出会いに特別な意味を見出せるほど濃密な学生生活を送ったわけじゃないが、ユカやナオと友達になれて、羽瑠と気軽に話せるくらいの仲になれたから、それだけでこの一年はそこそこ良いものだと思えた。


 叶うか分からないけど、来年も同じクラスになれたらいいなと思った。困ったときにだけ都合よく現れる『神様』に祈っておいた。


 同時に二年生になるということが億劫にも感じられた。二年生になったら受験も近づいてさらに勉強も大変になるだろうし、きっとまた面倒なことも増える。


 とりあえず、束の間の春休みをうんと楽しむしかない。思いっきりだらけよう。


 ここ最近ほぼ全ての授業で、学級委員が「一年間ありがとうございました! 」というお礼とともに号令をかけていた。


 来年の担当が誰になるか分からないけど、この先生の授業も今回で最後かもしれないと思うと、それは貴重なことな気がして、苦手な数学の授業にも少しだけ身が入った。


「きりーつ。礼! 」


 最後の号令がかかって、私の高校一年生は終わった。



 そして新学期。


 特にやることもなくダラダラ過ごした春休みを終えて、私は無事高校二年生になった。だからって特別何かが変わることもなく、あくびをしながら電車に乗った。


 やはり久しぶりの学校というのはいつもに増して面倒くさい。


 昇降口には名前とクラスが書かれた紙が貼り出されていたので、大量の人に揉まれながらも自分の名前を探した。苗字が天川だと、出席番号が確実に前の方になるので見つけやすくて便利だ。


 幸いすぐに見つかって、自分が二組に所属していることが分かったが、それで満足してすぐに立ち去るようではまだまだ甘い。ある程度メンツの確認をしなくては。


 自分の名前の下にズラリと並ぶ文字たちを辿っていくと、ユカの名前が見つかった。だけどナオの名前はない。クラスが離れてしまったらしい。


 さらに下に辿っていくと、『八坂羽瑠』という文字が目に入った。思わずガッツポーズをする。


 さて、もう確認すべきことはない。新しいクラスはそこそこ良いと思えた。鈴村さんの名前はなかったし、ユカや羽瑠と同じクラスだった。ついでに堺くんも。


 ナオと離れてしまったのは残念だけど、今生の別れじゃあるまいし、同じクラスじゃなくても話すことはできるだろう。

 

 見終わったならさっさと退散するのが礼儀だと思うので、私は身を屈めつつ人混みから脱した。そのまま靴箱へ向かおうとして、昇降口のガラスに映った人影に気付く。


「羽瑠! 」


 私が声をかけると、向こうもすぐに気づいてくれた。


「マカ! 久しぶりー」


 私が駆け寄ると、羽瑠は困ったように眉をひそめた。


「見えないんだよね。あのクラスかいてあるやつ」


「あー、そっか。ちっちゃ____」


「なんか言った? 」


「なんにも言ってないでーす」


 私は軽く両手を上げる。


「だよねー」


 できる限りたくさん頷いた。


「私はさっき見たんだけど、羽瑠、私と同じ二組だったよ」


「あ、そうなの? やった! 今年もよろしく」


「こちらこそよろしく」


 握手して、その手をブンブン振った。


「じゃ、教室行こ」


 一通り手を振り回し終えると、羽瑠は早速人混みから外れ、靴箱へ向かおうとする。


「見なくていいの? 二組に誰がいるかとか」


「別にいいでしょ。教室に入ったらどうせ分かるし、見ても意味ないじゃん」


 さすが羽瑠である。心の準備とか、そういうのを必要としないらしい。


「そっか。じゃあ行こっか」


「うん。行こ」


 教室に入ると、出席番号順に指定された席につく。天川と八坂だから席が教室の端と端にある。離れすぎているので、ちょっと悲しい。


「サノ殿~!! 」


 新しい机のスベスベ具合を確認していると、背後から懐かしい声とともにギュッと抱きつかれた。


「一緒のクラスになれて嬉しいでござる! 」


「うん! また一年よろしくね」


「でも、ナオ殿が別の陣地へいってしまわれたのは悲しいでござる……」


「陣地て。そんな大層なもんじゃないって。クラスが違っても話せるよ」


「ほんとでござるか……?  」


「うん! もちろん! 」


「良かったでござるううう。今生の別れじゃなくてええええ」


 もちろん私だって、ナオとクラスが離れて悲しい。だけど、ナオもユカがこんなに悲しんでくれたら、別のクラスになった甲斐があるってもんだろう。


 さらに強く抱きついてくるユカを笑いながら、私はこれからの学校生活が少し楽しみに思えたのだった。


 



 

 


 





 

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