第2話 いつメン

 そんな私にも、ありがたいことにいつメンと呼べるような友達がいる。


 私を入れて3人の、こぢんまりしたグループである。ゆかりとなお、それぞれタイプは違えどいい人たちだ。


 お互い、ゆかりなら『ユカ』といった具合に二文字で呼び合う。ナオが二文字だから、自然にそれに寄ってった感じだ。


 ちなみに私は『サノ』と呼ばれている。なぜ『ヒサ』ではなく『サノ』なのかは未だ不明。確か、最初にユカが適当にそう呼び出して、それが定着してったんだと思う。


 私たちは昼休みや移動教室のとき、自然にフワーッと集まる。


 「うちらズッ友だよ! 」とかダルくて信用ならないことを誰も言わない雰囲気を気に入っている。


 今日もいつも通り、3人で机をくっつけてお弁当を食べていた。


 四時間目の授業が終わったら自動的に、他のグループから適度に距離が離れた定位置に集まって、各々勝手にお昼ご飯を食べ始める。


 ふわふわの卵焼きを頬張っていると、ユカが私のお弁当をじっと見つめていることに気がついた。肩の辺りで切り揃えられた髪を指先で整えながら、眼鏡の奥をキラキラさせている。


「ふぁに? 」


 お聞き苦しかったら申し訳ない。なに? と言ったつもりである。といっても、要件は大体わかってる。その上での「なに? 」だ。


「やー、サノの『囚われのローズ姫を金の羽衣で包みし飛翔』美味しそうだなて思ったんでごわす」


 一応解説しておくと、トンカツのことを言っている。


 ユカは私と同い年で高一だが、中二病である。治りかけの厨二病なのだと信じたい。


 厨二病は……不治の病ではないはずだ。うん。


 私は口の中の卵焼きをちゃんと呑みこんでから言った。


「いーよ。いっぱいあるし、一個いる? 」


「我はサノに感謝するでごわす! 」


 ユカは、一人称も語尾もなんかおかしい。しかも日によって、ひどいときは午前と午後でも変わったりするから、見てて飽きない人物ではある。


「んまーい! 」


 そして彼女は、めちゃくちゃ美味しそうに食べる。それもあって、私は毎回彼女に快くおかずをおすそ分けしている。


 ユカに美味しそうに食べられた方が、様々な人の手を媒介して作られた『囚われのローズ姫を金の羽衣で包みし飛翔』も浮かばれるだろうし。


 彼女の口へ吸い込まれていった勝ち組のローズ姫たちに心の中で手を振りながら、可哀想なことに私のお弁当箱に取り残されてしまったローズ姫たちを自分の口に運んだ。


 そうだな。ユカは食リポ専門のアナウンサーにでもなったらいいと思う。それか、全国グルメ地巡りでもして動画配信サイトなんかにアップすれば、よく分からんキャラも相まってワンチャンバズりそう。


 うん、いいね。


 勝手にユカの未来構想を練っていると、ナオが身を乗り出してきた。


 内緒話をするように口元に手を当てて、そこそこ大きい声話す。


「山田くんがさ、3組の橋見さんと付き合ったらしいよ」


 山田くんとはうちのクラスの男子である。イケメンな方ではあると思うが、私は他人の恋愛事情に興味がある方ではないので適当に相槌を打つ。


「えー、橋見さんてあの超絶美人の? 」


「そ。スタイルもめっちゃ良いしさ、本当に同じ人間かよって感じするわー」

 

「うーん。それはたしかに」


 頷く私とは対照的に、ユカが首をブンブン横に振った。


「いやいや、ナオもサノも可愛いでごわすよ。橋見さんみたいに完璧な美少女ってわけじゃないかもでごわすが、我はそこそこ可愛い2人が好きでごわす」


「「……」」


 ユカはよく、そんなことを恥ずかしげもなく言う。私はナオと顔を見合わせて、二人同時に吹き出した。


「いや、よく考えたらそこそこ可愛いってちょい失礼じゃね」


「それ思ったー」


 そうやってからかってみると、ユカは慌てたように顔の前で手をブンブン振る。


「いや、悪気はないんでごわすよ! 」


「ほんとかな〜? 」


「信用ゼロでごわすか!? 」


 いい人という括りでは収まりきらないかもしれない、私の友人たちとの日常である。

 




 

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