第7話 承認欲求

 金を買い、競馬での資金をさらに増やしながら、俺は次なる戦略を考えていた。


 ——資産を築くことは順調だ。だが、それだけで満足か?


 俺は令和の世界では、ただの平凡な地方公務員だった。安定した生活はあったが、特に目立つこともなく、成功者と呼ばれる人生ではなかった。


 だが、今は違う。未来の知識がある。


 単に金を増やすだけでなく、名声を得る道もあるのではないか?



---


 俺はノートを広げ、考えを整理する。


 《名声を得るための戦略》


① 未来のヒット曲を先に発表する

② 未来の事件や災害を「予言」し、信者を集める

③ これから成功する人物に投資し、人脈を築く



---


 まず①の「未来のヒット曲を発表する」。


 令和のヒット曲を知っている俺なら、これからブームになるメロディや歌詞を先に出せる。だが、これはリスクが大きい。楽譜を書けるわけでも、作詞作曲の経験があるわけでもない。 歌の才能がなければ、自分で歌うのも難しい。


 仮にレコード会社に持ち込んでも「本当にお前が作ったのか?」と疑われるのがオチだろう。さらに、未来のアーティストが同じ曲を出したら盗作騒動になりかねない。


 ——これは却下だな。



---


 次に②の「未来の事件や災害を予言し、信者を集める」。


 たとえば、大地震や事故を事前に「警告」すれば、多くの人が驚くだろう。それが何度も当たれば、「予言者」としての地位を確立できる。


 そこから宗教や思想団体を立ち上げ、影響力を持つという手もある。


 宗教は一度軌道に乗れば、人々が自ら信仰し、資金を提供してくれるビジネスモデルだ。信者を増やせば、政治にも影響力を持つことができる。


 だが、これは極めて危険な方法だ。


・ あまりに的中しすぎると「どこから情報を得た?」と疑われる。

・ 予言を外した場合、信頼を失い、一気に転落する可能性。

・ 宗教は簡単に作れるが、管理が難しく、国家権力の監視対象になる可能性がある。


 ——リスクが高すぎる。やるにしても、慎重に考えないといけない。



---


 最後に③の「これから成功する人物に投資する」。


 未来で大成功する企業家、芸能人、スポーツ選手に早い段階で支援をすることで、恩を売る。これが成功すれば、成功者の人脈を手に入れ、自然と名声もついてくる。


 たとえば、これから世界的な起業家になる若者に投資しておけば、将来その人物が大企業の社長になったとき、「俺が彼を育てた」と堂々と言える。


 リスクは、支援した相手が成功しない可能性があることくらいだが、それは分散投資でカバーできる。


 ——この方法が最も堅実で、リスクが少ない。



---


 結論として、まずは③の「成功者への投資」を優先しつつ、慎重に②の「未来予知」を使って影響力を増やすのがベストだろう。


 ただし、宗教の立ち上げはリスクが高いため、情報を限定的に流し、「ただの賢い男」として立ち回るのが得策だ。


 ——富と名声、その両方を手にするために、次の一手を考えなければならない。


 未来の成功者に投資する。


 この方針は決めたものの、方法は大きく分けて「個人に投資する」か「企業に投資する」の二択だ。


 人に賭ける場合、スポーツ選手や芸能人、起業家を探し出し、早い段階で支援することで恩を売ることができる。だが、これは時間がかかるし、相手が本当に成功するかどうかは未知数だ。


 一方で、企業に賭けるなら、すでに動き出している将来の大企業を特定し、株式を買うことで利益を得るという手がある。



---


 俺はスマホを開き、令和の時代に大きく成長した企業のリストを眺めた。


 未来で巨大企業となっているが、今はまだ上場前、もしくは創業初期の企業に投資できれば、確実に利益を得られる。


 特に、IT、ゲーム、通信、インターネット関連の企業は、これから爆発的に成長することが分かっている。


 俺はノートに、投資候補となる企業をメモしていった。



---


 《これから大企業になる企業リスト》


① IT・インターネット関連

② ゲーム業界

③ 通信・インフラ関連

④ 金融・証券業界


 ①のIT・インターネット業界は、間違いなく成長する。今はまだ一般家庭にインターネットが普及していない時代だが、数年後には誰もがネットを使うようになり、その波に乗った企業が爆発的に成長する。


 しかし、問題は「今はまだほとんどの企業が上場していない」ことだ。上場前の企業に投資するには、経営者と直接コネを作るしかない。これはかなり難しい。


 ②のゲーム業界は、これから黄金時代に突入する。新しいゲーム機が登場し、大ヒットタイトルが生まれるのは分かっている。ゲーム会社の株を買うのは有効な手段だ。


 ③の通信・インフラ業界も面白い。携帯電話やインターネット通信が急成長するのは確実だ。特に、新しい通信技術が登場するタイミングを知っていれば、大きな利益を得られる。


 ④の金融・証券業界は、バブル崩壊後の日本では低迷しているが、これから徐々に回復していく。特にITバブルやリーマンショック前後の動きを知っていれば、株式投資で大儲けできる可能性がある。



---


 俺はしばらく考えた後、次の方針を決めた。


 まずは確実に成長するゲーム業界と通信業界に狙いを定める。


 ゲーム会社の株を買い、これからヒットするゲームタイトルを知っているアドバンテージを活かす。通信業界では、携帯電話関連の企業を中心に投資していく。


 並行して、有望な個人への投資も進める。


 例えば、これから有名になるスポーツ選手や起業家に接触し、支援をすることで人脈を作る。


 企業と個人、両方に投資しながら、確実に影響力を広げていく。


 ——金を増やすだけじゃない。俺は歴史を変える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る