第4話 私はスズメから様々なものをもらっている

 お隣さんは昨日の鍋パと毎日の差し入れ、その写真のSNSへのアップの許可を求めてきた。

 私はそれを了承した。


 ――まあ、実際にはもうかなり前からアップされているんですけどね……。


 私が初めて差し入れを行った次の日。

 早速、お隣さんはVTuber【立木たちきスズメ】のSNSに料理の写真をアップした。

 それから毎日欠かさず、写真はアップされている。

 おい、コンプライアンスはどこにいった? 事後報告は良くないと思います。

 これからは気兼ねなく写真がアップされることだろう。

 鍋の写真も、私が帰ってから十分後にはアップされていた。

 あと、私はではない。あの子は……。


 ちなみに、私は料理の腕にそこそこ自信があったので、比例して【立木スズメ】のファンからの評判もいい。

 最初は味気ない、ジップロックの容器を使っていたんだけど、最近は写真映えも意識してディズ●ーの食器や、一番くじで当てた可愛いマスコットキャラのプレートを使用している。

 いかにも男の子が好きそうな差し入れ。少しでも【立木スズメ】の人気に貢献できれば幸いである。


 そんなこんなで、鍋パの次の日の【立木スズメ】の雑談配信。

 もちろん話題は私との鍋パが中心だった。

 リスナーも鍋パをしたことはすでに知っている。その詳細をさらに知りたがっていた。

 もちろん、私もリアルタイムで聞いている。どんな話題が出るか監視中。

 まあ、監視したところで、私はモデレーター権限を持っていないのでどうしようもないわけですが……。


『昨日の鍋、本当に美味しかったんだよ。もうお野菜もとろとろで――』


 いつもより数倍、声のテンションが高い。

 のっけから飛ばしている。話すスピードも早かった。


『もう、私がお嫁さんになるしかないよねっ!』


 普通、逆では……。お嫁さん希望なら、ちゃんと自炊もしてよ。

 SNSには載せきれなかった写真を見せながら、楽しそうに雑談する【立木スズメ】。

 ファンのコメントもほっこりとしたものが多い。

 それはそう。推しの楽しそうな姿を、誰よりもファンは見たいのだ。

 玄関で倒れる以前の無理をしていた配信。

【立木スズメ】らしくない、上手くいかないことへの弱音を吐いていた配信。

 そんなのファンは見たくない!


 ちなみに、ファンが和やかに話を聞いていられるのには、私の一工夫が効いている。

 それは、私が絶対に同性であることを匂わせているからである。

 女の子が使うような可愛い付箋、女の子が書くような可愛い文字で、


『もし良かったら食べてください💓』とか、

『美味しいか不安ですがどうぞ✨』とか、


 あざとく書いているから。

 異性ではないことを、明確に示している。

 実際に異性ではないから、何もおかしいことはないんだけどね……。

 ファンの不安の種はきちんと潰す。こういうところは、私は抜かりなく行っていた。


 そして、話題はなぜか【立木スズメ】のおとなりさん。つまり、私へと移っていた。


○おとなりさんに推し変します

○今日からおとなりさんを推します

○俺はおとなりさんのおとなりさんだぞ!


『そ、それはだめっー』


○おとなりさんラブ

○スズメちゃんさようなら

○おとなりさんのチャンネルはどこー?


『ぜったいだめーって』


 お隣さんは【立木スズメ】のアバターをきちんと悲しい顔に変えつつ、でも、本当に少し涙目な声でファンを引き留めようとする。

 自分も料理ができることを、必死でアピールしている。

 本人もリスナー(ファン)も何をしているんだか……。


『スズ友(※)さんがおとなりさんに恋したら、私、絶対に勝てないよ……』(※立木スズメのファンネーム)


 彼女は、私が配信を観ていることも知らずに、恥ずかしいことを並び立ててくる。


『だって、おとなりさんは何でもできるんだもん。料理も私の世話も、それに命の恩人で白馬の王子様だし……。髪も長くて綺麗なんだよー。えへへっ』


 どこから突っ込んだらいいのやら。とりあえず個人情報をばらすのだけは、やめてくれませんか……?


『毎日の差し入れだって、余ったとかあからさまな嘘をついて、ずっと続けてくれているし。そんなことされたら……、勝てるわけないよ……』


 やめ時が分からなくなっていたところはある。

 不自然なのは承知している。料理ができるんだったら、作りすぎることなんて連続してあり得ないし。


『私、おとなりさんに何もしてあげられない……』


 それは違う!

 私は【スズメ】から様々なものをもらっている。

【スズメ】のおかげで、最近VTuberの配信を観るのが楽しい。

 だから……、毎日差し入れを作っているんだよ。


○配信におとなりさんも呼んでほしい

○おとなりさんと女子力勝負しよう

○今、おとなりさんを呼ぼう


 なんでそうなる。

 いや……、しんみりとした流れは嫌いだから、助かると言えば助かるんだけど……。


『私だって、おとなりさんを配信に呼びたいよ。女子力勝負はちょっと嫌だけど。でも……』


 彼女は少しだけ口ごもった。


『きっとだから無理。あと意外と照れ屋さんだから、絶対に断られると思うよ』


 そこは弁えているのか。私も配信には出たくないし。


○てぇてぇ

○やっぱりおとなりさんを推します

○おとなりさんが出てきたら推し変しちゃうね


『だから、だめっー』


 この茶番なに? ファンと盛り上がっているのなら別にいいけど……。

 私も配信を観ながら、適当にメンバーシップ限定のスタンプを連打しているし……。

 嫌々、リスナーと共に【スズメ】に同調する。

 私の存在自体が茶番である。


『スズ友さん達に、一つ相談なんだけど』


○スズメちゃん、なにー?


『どうやったら、おとなりさんと付き合えると思う?』


 ぶーっ!?

 突拍子もない【スズメ】の発言に、私はペットボトルの飲み物を吹き出しそうになる。

 手元のコメントに恐怖系のスタンプ(😱)を打ちそうになる。

 周りが『てぇてぇ』言っているのに、明らかに場違いなコメントを打ちそうになっていた。


『だって料理は美味しいし、気遣いはできるし、話はずっと聞いてくれるし、理想的ななんだよね』


 あのー、私も女の子なんですけど……。


『日本って同性婚できたよね?』


 できません!!!

 いや、出来なかったはずだよね……?

 ニュースとか真面目に見ていないけど、同性パートナーシップとやらが話題になっているだけで、法律では、まだだよね……?


 まさか推しから告白されるとは……。

 本来ならすごく嬉しいはずなんだけど……、そう感じないのは何故だろうか……。

 同性、だから???

 とりあえず、当面はスルーということで……。


 そして、私の気持ちなど意に介さず、【スズ友】たちの話題もそっちへと変わっていた。

 どうすれば、【スズメ】がおとなりさんと付き合うことができるのか。

 完璧超人、だけど少し照れ屋なおとなりさんを、どうしたら落とすことができるのか。

 良いエピソードしか表に出てこないせいで、美化されすぎでしょ私。

 私以外、【立木スズメ】と【スズ友】による、徹底討論へと発展していた。


「うっ、急に寒気が……」


 私はそこで配信を閉じた。

 後でアーカイブを見ると、深夜まで議論は行われていて、動画の時間を見て、私は顔が真っ青になった。


【スズ友】たち、作戦立てすぎでしょ。

 朝か昼に、逆、差し入れ作戦。いや、いらないから。

 好きな物を聞いて、プレゼント作戦。まあ、それは悪くないかも……。

 他にも色々と作戦があったけど。

 あと、とりあえず既成事実を作ろうとするのだけは、本当にやめろ!!!

 自分の推しに襲撃を指示するな!!!


 私はやっとここで、とんでもないVTuberを推してしまったのだと理解したのだった。

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