第32話

それから1ヶ月の間、青木は遊びや無駄遣いを控え、バイトにも励み、必死の思いで十万円を貯めた。・・・とはいえ元々、貯金が4万あったのだが。そして、そのお金で飛行機のチケットを取り、格安のビジネスホテルを予約した。


そう、東京へ行くのだ。


出発の前夜、青木は久しぶりに真衣と会うことにした。

以前、真衣と訪れたカフェで待ち合わせた。


「ゴメン!遅くなっちゃった!」

いつもどおり、時間より少し遅れてやってきた真衣は、乱れた髪を直しながら、青木の向かいの席に座った。頬が少し赤くなっている。走ってきたのだろう。

「なんだか、すごく久しぶりに会うみたいな気がする。最近、悠ってば忙しいみたいだったから・・・」

「ああ、ちょっと事情があって、お金を貯めようと思ってさ。バイトばっかりしてたよ。」

「そっか。・・・で、事情って?何?」

真衣が、小首を傾げながら笑顔を見せる。

 青木は、初めからそのことについて、しっかりと話をするつもりでやってきた。しかしながら、やはり、何も知らない真衣のその、無邪気な表情を見てしまうと、決意が鈍りそうになる。言うんだ、と何度も自分の中で言い聞かせる。

「実は、東京に行くことになった。」

「東京に?どうしていきなり・・・就職活動とか?」

「いや、そうじゃないんだ。ただ、どうしても調べなくちゃいけないことがあって・・・」

「調べなくちゃいけないこと?・・・もしかして、とは思うんだけど、倒れた日の事・・・変な男の人と何か関係があるの?」

真衣は静かに、探るように聞いた。

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