第22話

真衣の家はその店から5分位のところにある。青木と同様、一人暮らしだ。青木の家とは反対方向だったが、夜遅いからと、送ることにした。いくら夏が近いとはいえ、夜十時ともなれば真っ暗だ。

「そんな、気を遣わなくっても大丈夫よ。走って帰ればすぐだし、このくらいの時間になるのは、よくあることなの。」

 真衣はやはり遠慮した。

「バカ。お子ちゃまなんだから、こんな時間に一人でフラフラさせられないだろ?補導されるぞ。それに、ほら、ロリコンとか危ないやつだっているかもしれないし。」

「なにそれ!」

 ムキになって怒り、叩こうとしてくる真衣をかわしながら、青木はまた笑った。


昼間よりは少し涼しい風が吹いている。

一度会話が途切れると、何を話していいのか悩むばかりで、うまく言葉が出てこない。真衣も珍しく黙りこんでいる。結局何も話題が見つからないまま、あっという間に真衣の家に着いてしまった。

「じゃあ・・・」

顔を上げ、そのまま帰ろうとした青木だったが、真衣に呼び止められてしまった。

「待って!」

真衣は、青木のシャツの裾をしっかりと掴んでいる。

『これは完全にアイロンが必要だな・・・』

青木はくしゃくしゃになっていく裾をチラリと見てから、真衣の顔へと視線をずらした。

「月曜日からは、絶対に学校に来てほしいの。」

「・・・保証はできないよ。」

 青木は、ベストな言葉を捜したが、他に良い言葉は見つからなかった。真衣を安心させてあげたかったが、今の自分には、約束することはできない、と思った。真衣といて、すっかり以前の生活に戻ったような気分になっていたのだが、こうして帰り際になってみると、言い知れぬ不安が込み上げてくるのだった。

また、キノコだらけのあの家に戻れば、そこから抜け出せなくなってしまうかもしれない・・・

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