世界征服がしてみたい魔王と英雄さま!
@otoha368
第1話 世界征服テスト
第1話
これは昔々のその昔の物語。
国の大半を占める程の人々を救い、
英雄になった青年がいた。
青年は十五歳にも関わらず民衆から強さと
栄誉を称えられ城を手に入れる。
そんなある日、魔王と名乗る男が城を襲撃してきた。
「俺は魔王だ!お前が英雄レセル・ラートだな!」
「そうだよ」
玉座に座る青年に紫の目をした黒髪で長身の魔王は
勝ち誇ったように言ったが、
城を襲撃しているというのにレセルは少しも
慌てた様子もないので魔王は反対に驚く。
「それで?君はこの城を襲って何がしたいわけ?」
「え…えっと…それは…」
冷ややかに問われて魔王の男はうろたえる。
だが負けじと胸を張ってレセルに宣言した。
「も、もちろん!世界征服だ!!」
男が言った数秒後、
レセルが腕を組んで冷たく答える。
「言ってて恥ずかしくない?」
「うぐ…ほっとけ!」
「まぁ、良いや…
じゃあ、君が世界征服しても
良い人材かどうかテストさせて貰うよ」
「は?」
予想もしない事を言われて魔王は気が抜ける。
だが、こちらの心情など
お構いなしに青年はテストを始めた。
「まず、名前を…」
「ち、ちょっと…待て!もしも、もしもだ!
悪かったらどうする気なんだ!?」
「軽く八つ裂きかな」
「おい!恐ろしい事をさらっと言うな!のわ!」
「口答えしないで、さっさと答えてよ」
突然、雷が落ちてきて魔王は地べたに倒れ伏す。
「くぅ~…さっきから一体、何様のつもりなんだ!」
「英雄様」
「……あ~…そ、そうだよな。英雄様だよな。うん」
「解ったのなら名前は?
もしかして言えない様な恥ずかしい名前なの?」
「そんなわけないだ…いや…そんなわけないです」
レセルが冷ややかな眼で自分を見たので、
魔王はまた雷に撃たれると思い訂正する。
「ロキス・ブルーノア。
泣く子も黙る大魔王とは俺の事だ」
「普通、自分で言う?
『泣く子も笑う』の間違いじゃないの?」
「そ、そんな訳ないだろっ!俺は魔王だぞ!?」
レセルの眼に今度は怯えず力説してロキスは言う。
しかし、レセルは腕を組んで質問をしてきた。
「じゃあ、聞くけど…
小さな女の子が迷子で泣いていたら?」
「ええっと…一緒にお母さんを捜してやるかな」
「帽子が木に引っかかって子供が泣いてたら?」
「高所恐怖症だが、木に登って取ってやるな」
「やっぱり泣く子も笑うが正解みたいだね…
というか高所恐怖症なんだ」
「しまったぁぁぁっ!」
つい自分の弱点を言ってしまったロキスは
頭を抱えて叫ぶ。
魔王にとって自分の弱点を知られてしまうのは
屈辱的に近いことなのだ
言いふらすような人間には見えないが、
高い所に登れと言いそうだ。
ロキスが絶望しているとレセルは、
聞かなかったという様に話を続ける。
「じゃあ、次の質問だけど…」
「ちょっ…ちょっと待て!」
「何?」
「弱点を知ったから俺を高い所に
浮かび上がらせるかと思ったんだが…?」
「……上がりたいの?」
「いや!全然っ浮かび上がりたくないぞ!!」
レセルが魔力で浮かそうとしたので
ロキスは精一杯に首を振って拒絶する。
「だったら言わないでよ。時間の無駄なんだから」
(くぅ~っ…可愛くない!)
肩で息を吐きながら死ぬ思いをしたロキスが
胸中で吐いていると、レセルは言う。
「君は人間たちをどう思ってるの?」
「はい?どう思うって?」
あまりに真面目な質問だったので
ロキスは気が抜け聞き返していた。
するとレセルが少しイラついたように笑顔で言う。
「質問しているのは、こっちなんだけど?」
(うっ!え、笑顔なのに怖い!何だこの気迫は!?)
その笑顔を見たロキスは冷や汗を掻きながら素直に答える。
「き、嫌いではないが少々ムカつくところはありますです」
あまりの緊張で語調が変になった。
レセルに指摘されるかと思いきや…
「ふーん…どんなところが?」
以外にも普通だったのでロキスは唖然とする。
しかし、早く答えないと攻撃されると感じ正直に答えた。
「えっと…住みやすい環境づくりか何だか知らないが、
森や草原を壊して家を建て動物たちの生き場所を
滅ぼしているからだな…自覚はないようだが」
「魔王のくせに慈悲深いんだね」
「悪かったな!」
正直に話したのに馬鹿にされたので、
ロキスは半分泣きたい気分で言い返す。
また雷でも落とされるかと思ったが
レセルは頬づえを着き微かに笑って言う。
「別に良いんじゃない?慈悲深い魔王が居てもさ」
「え…」
今までの言動からは想像できない事を言われて、
ロキスはまたまた唖然とする。
(いかん!今、可愛いとか思ってしまった!
しっかりしろっ!相手は男だぞ!?ロキス)
自分の感情に戸惑い言い聞かせているロキスに
レセルは再び問う。
「次の質問。君は僕の事をどう思う?」
「はい!?」
「何?その奇妙な声…」
突然、レセルが心を読み取ったような
質問をしてきたのでロキスは驚き声が上擦る。
(こいつはエスパーか!?
まるで俺の心を見透かしたみたいな…
ハッ!もしや人間世界でいう女の勘ってやつか?
そ、そうだな…
顔も女みたいだし、そういう能力も)
「あたぁっ!!何でいきなり岩を降らせる!?」
「何となく僕がムカつく事を
思考しているような気がしたから」
「うっ!」
あながち嘘じゃないのでロキスは口ごもった。
そんなロキスを攻めるでもなく、
レセルは再び質問をする。
「質問を解りやすく変えるよ。
君は僕のように偉くなった人間をどう思う?」
「あ…何だ、そんな事か…」
「何が?」
「いやいや!何でもない!何でもないぞ!
偉い人間達か~そ、そうだな…」
これ以上は追求されまいと
ロキスは質問の答えを考える。
「んー…地位にものを言わせて
市民から税金というのか?
それを高値で貧しい者からも
奪う輩は嫌いだな。
それと上っ面だけの奴も嫌いだ。
見ているだけで腹が立つ」
「つまり僕もそんな奴だったら、
子供だし軽く
やっつけてやろうと思った訳だ?」
「そうそう子供だし…って、
あ!いやいや滅相もございません!!」
まったくそのとおりだったので、
ロキスは半分頷きそうになり慌てて否定した。
その言動にレセルは別に怒るでもなく
ロキスの顔を凝視する。
(うっ…か、可愛い)
改めてレセルを見たロキスは
素直にそう感じて胸中で呟く。
子供だが可愛く端整な顔立ちをしている。
髪色は銀髪で目は青く将来は必ず
美男子になるだろうとロキスが思っていると
黙って凝視していたレセルが口を開いた。
「魔王のくせに人間思いだね。
本当に魔王なの?」
「なっ、正真正銘の魔王だ!」
(前言撤回…!やっぱり可愛くない)
ロキスがキッパリ言い返すと、レセルは
馬鹿にしているのかいないのか、意味深に笑う。
それを見たロキスは何だか腹が立ち腕を組んで、
怒ったようにレセルに聞く。
「それで?テストはもう終わりなのかよっ」
反抗的な態度のロキスを怒るでもなく、
レセルは一言いった。
「次は……君の強さが見たいかな」
「!」
今まで質問だけしかされなかったロキスは
突然、そう言われて驚く。
口は笑っていたが
目が笑っていないところを見ると、
冗談ではないようだ。
それに気付いたロキスは緊張して身構える。
「はっ…やっと俺と戦う気になったか?」
世界の大半を救ったという程の力と戦えると思い
感情が高ぶったのも束の間、
目の前のレセルは後ろを振り返った。
「うん。彼女がお相手するよ」
「は?」
レセルが言った後、後ろのカーテンから
小柄で長い紫の髪を
ツインテールにした女が現れた。
「始めまして~魔王さん☆ナナです!
お手柔らかに~」
服装はビラビラで、いかにも
子ギャル風な彼女を見たロキスは脱力する。
「ちょっ…ちょっと待てよ…
何だよ、その服は」
「え?ゴスロリファッションですよ?」
「ゴス…ロリ?」
ロキスが首を傾げて聞き返すと、
ナナは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「あ、な~んだ、
魔王さんはゴスロリ知らないんですね」
「な!ば、馬鹿にするな!知っているさ!」
「じゃあ、何ですか?」
馬鹿にされて悔しかったロキスは見栄をはったが、
聞き返されて戸惑う。
(うっ…しまった…
えっと、た、多分…略されているんだよな)
「ゴ、ゴージャスでステキな服を
ロリータさんが着ていた服だ!」
「見事な発想力ですね~」
あきらかに馬鹿にした口調でナナは言い
しらけた拍手をする。
「わ、悪かったな!知らなくて!」
開き直ってロキスが言うと、
ナナは微笑み戦闘態勢に移った。
「いえいえ、知らなくても良い事ですから…
では戦いましょうか」
それを見たロキスは玉座で
悠長に本を読んでいるレセルに言う。
「おい!相手は女の子だぞ!
本気で戦える訳がないだろ!」
「甘く見ていると痛い目に合うよ」
本から目を離さずにレセルは忠告する。
そんなにナナは強いのかと
ロキスが首を傾げていると、
突然ナナの方から凄い殺気がして
反射的に飛んできた何かを避けた。
その何かはロキスが避けた事で
背後の壁に当たり爆発する。
「残念…外れちゃいました」
そういうナナの腕は銃の形をしており、
銃口から微かに煙が出ていた。
あきらかに普通の人間の女性ではない。
それを断言するようにレセルが
ナナの正体を告げた。
「彼女は機械人形。さっきのはミサイルだよ」
「殺す気か~っ!!」
緊張感の全くないレセルに
ロキスが反論していると、ナナが笑顔で言う。
「大丈夫ですよ~レセル様の制止がない場合は
半殺し程度に済ませますから~」
そう言いながら銃口をロキスに向ける。
今度はマシンガンが放たれロキスは
撃たれてなるものかと、それら全てを避けた。
「もう!一発くらい撃たれてくれないと
盛り上がらないじゃないですか~!」
「何のために盛り上げるんだよ!」
パーティーの催し物じゃないんだぞと思い、
柱の影に逃げ込んでロキスは息を詰める。
ナナは暫く柱の方を見つめてたが、
ロキスが動きを見せないと知り
右手を変形させた。
「仕方ありません、とっておきの攻撃をします」
変形させた右手をロキスの居る柱に向け、
力を解放させる。
「なっ!?」
その力の集まる光を見たとき、
ロキスは直感でやばいと感じた。
「撃ちますよ~!死なないで下さいね~!」
「冗談じゃない!
そんな恐ろしいもの撃たせてたまるか!!」
ロキスは撃たれる直前、
地面に右手を力強く振り下ろし力を使う。
その瞬間、ナナは大きな結界に閉じ込められた。
「あれれ?」
現状に驚いたナナは
溜めていた力を消滅させ結界に触れる。
「これで撃てないだろ」
まだ少し警戒しているロキスは
柱から離れずナナに言う。
ナナは結界に閉じ込められた事に
腹をたてて、何度も銃も撃つ。
しかし、結界は傷一つつかず破壊できない。
「レセル様~閉じ込められちゃいました!」
半泣きで訴えるとレセルは
本を閉じて立ち上がる。
「もう良いよ、
彼の力はだいたい解ったからテスト終了」
「解ったって…どんなふうにだよ?」
たった一回しか魔法は使っていないのに
理解できる訳がない。
そう思いながら聞くロキスに、
レセルは腕を組んで答える。
「殺気を感じ取る事ができる察知能力、
全ての攻撃を避ける
瞬発力が優れてるって事かな」
「まるで逃げ足の速いトカゲですよね~」
「こらっ!何だ!その例えは!」
聞き捨てならない事を言われたので、
結界を解き足早に近づきながら
ロキスは反論する。
その姿を見たナナは片方の頬を膨らませ
逆切れした。
「だって~逃げてるだけだったじゃないですか!
何ですか?私が女の子だから
攻撃できないっていう甘えた考えですか!?
貴方はそれでも魔王ですか!」
「す、すみません…」
指をさされて怒られたロキスは
肩を落とし素直に謝る。
その光景を見たレセルはクスクスと笑い、
「ほんと、魔王には見えないね」
そう言いながら腕を組んだ。
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