不死の騎士団は満たされぬ
@syakan
第1話 不死の罰
不死の騎士団。それは永遠の命を求めた者たちが、集った邪教の騎士団だった。
まだ不死ではなかった頃、真に不死を願い、
あらゆる悪逆を尽くし、数多の邪教の教えに従い、不死を求めた。
その果てに、彼らは不死を得た。
不死を得て、さらなる悪逆を尽くし、不死であるゆえに、
あらゆる時代、あらゆる場所に、その爪痕を残した。
恐ろしい伝説、悍ましい逸話、
全身を震え上がらせる話の数々。
しかし誰も彼らが不死を得た先に、何を求めたのかわからなかった。
この世全ての快楽を求めたとも、金銀財宝を集めて悦に浸ったとも、
血生臭い戦いを欲したとも。誰もが噂したが、真実を知ることはなかった。
そしてある日を境に、悪逆の噂は途絶え、爪痕残る地の噂は塵となり、
いつしか人々の記憶から消えていった。
しかし彼らは生きていた。
生きている、というよりも死ぬことができなかった。
呪いである。
彼らの求めた不死は、呪いそのものだった。
彼らは知らなかったのだ。悪徳には代償があることを。
邪な教え、その行き着く先は、
今までの罪の重さと、
同様の罰であることを。
永遠の渇望、終わりのない欲求。
それこそが不死であり、悪逆を浴した彼らの、
永劫の罰だった。
不死の騎士団、その最期の流刑地にして、
棲み処は、深淵と呼ばれる場所だった。
太陽の光が届かない、暗黒が支配していた。
この地はあらゆる悪徳と罪が、
淀みとして流れ落ちる、その集積所。
言わば、汚水や汚泥が流れる排水路のようだった。
そしてその闇よりも暗き場所で、薄ぼんやりとした影が7つ、佇んでいた。
薄ぼんやりといっても、そこに光源となるものがあるわけではなく、
影が闇よりも濃いために、浮き出て見え、
そして佇んでいた、というより、
所在なげにいた。
そこに覇気はなく、どこか空虚で、今に闇へ蕩けてしまう雰囲気を醸していた。
これがかつて不死を求めて、世を混乱に陥れた者どもの成れの果てだった。
不死の呪いが騎士団の威勢をかつてないほど奪い、
陽炎のような淡く儚い存在に希釈してしまったのだ。
7つの影の一つが唐突に口を開いた。
「ギュスタブよ」
暗闇の中、空虚だが厳かに響く声。
かつて最も悪逆に尽くし、それを体現した存在。
騎士団を知るものがその名を聞けば、恐怖のあまり委縮し、
屈強な兵士ですら、慈悲を懇願する相手。
騎士団の長「マルナク」がそこにいた。
マルナクは、自らの配下に尋ねていた。
「我らが不死を得て、幾年経った?」
名を呼ばれたギュスタブはすぐに答えを返した。
「恐れながら、マルナク様。私は覚えておりません」
一閃。何かが振るわれた。
影の一部が転がり、
ギュスタブの首が落ちたとわかった。
マルナクはギュスタブの首を片手で持ち上げて告げる。
「他の者は?」
マルナクは自身の問いに答えられる者がいるか聞いた。
深淵に佇む五人の影、そのすべてが黙して語らず。
答えは明白だった。
「マルナク様」
首だけのギュスタブが喋った。
不死ゆえに、できる芸当だった。
「我々の中の情動はほとんど消えてしまいました。
酒は水よりも薄く、女を抱く喜びも、
血飛沫を浴びる気持ちよさも、財宝への欲望も、
食物を貪ることさえ、何も感じなくなりました」
「マルナク様が手慰みに私の首を落とすのも、
百を超えてからは数えておりません。
それがどうして、何百年も昔のことを思い出せるでしょう」
「……そうだな。ワシとしたことが、失念していたわ」
「……我々が求めていたものは、こんなものだったのでしょうか?」
マルナクはギュスタブの首を無造作に元の身体の位置に戻した。
「そうだ……と、言いたいが、そう言い張るだけの気概はワシにはない」
物憂げにマルナクは暗黒の空間を占める虚無を見つめた。
「不死を得て、幾星霜。夢見た果てが、
何も感じず、しかし満たされず、渇いていく」
5人の影は黙したままではなく、深い溜息とも、
ただ呼気を吐いたような音が溢れさせた。
「これが我々の求めていたものか」
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