砂漠の用心棒と赤髪の魔法使い【KAC20252】
ほのなえ
砂漠の用心棒
「砂漠の用心棒」を
砂漠の真ん中にあるオアシス都市で、街の上に浮かんでいる魔道学院を中心に発展したこの街は、至る所に魔法が飛び交っている。街の中心にあるバザールでは、魔法が使えない人たちに向けて、小瓶に入れられた魔法が売られているほどだ。
そのような魔道の街に住みながら、ラルドは剣の使い手だった亡き父親の
砂漠に囲まれたこの街から出て、別の場所に行くには砂漠を通らねばならないのだが、砂漠には、ここいらでは「砂漠のハイエナ」と呼ばれている盗賊の集団がいて、通行人を襲って金品を強奪する事件が多発している。
また街の中で裕福な商人などが強盗にあうこともしばしばで、用心棒が常駐している家もあるそうだ。
そんな中、ラルドの仕事は「砂漠のハイエナ」から通行人を守る方の、「砂漠の用心棒」を担当しているのだった。
この街では魔法使いが多いにも関わらず、用心棒というのは他の街同様、剣の使い手の仕事だった。主に魔法使いのその多くは上空にある魔法学院にこもり、自らの魔法の精度を高める、新たな魔法を生み出す、あるいは古い魔導書の解読――――といった研究に日々没頭している。
それ以外の街で暮らす魔法使いの場合も、用心棒などという危険な仕事はしない。
バザールで売られている魔法関連の品はどれも高値で取引されており、自分の魔法を売るだけでも十分に稼げるため、金に困って用心棒をする魔法使いなどはいないのだ。おそらくラルドも魔法が使えれば、この仕事を選んでいないことだろう。
そう、ラルドには魔法の才がなかった。幼い頃に一度、魔道学院に体験入学して見てもらったこともあったが、生まれつき魔力というものを持っていないそうだ。
(俺も……魔法が使えれば、こんな暮らしはしていないのにな)
今日も護衛のために砂漠を歩きながら、ラルドは思う。普段は淡々と仕事をこなしているラルドだったが、日々危険と隣り合わせの毎日に、ため息をつきたくなることもある。
(それに、魔法使いの連中に見下されることもない――――)
一度、魔道学院の天才だと謳われた、ラルドと近い年の黒髪の魔法使いに会ったことがある。そのような優秀な魔法使いが一人いれば護衛は必要ないのでは、と思いつつも、その魔法使い一行の護衛任務についたのだが、腰に剣を持つラルドに対して、終始見下すような視線を送ってきていた。
そして少し近づいただけで、こう言われたものだ
「それ以上近寄るな。この私に、貴様の血なまぐさい匂いがついたらどうしてくれる」
特に剣を持つ者が野蛮だと思われているのも、そう言われた一因なのだろうが――このように、魔法が絶対的な力を持つこの街では、魔法の才のない者は地位が低く、見下されがちだったのだ。
それでもこの砂漠に囲まれた街ほど、用心棒の仕事がある場所はない。剣しか取り柄のない自分でも十分な仕事にありつけるので、ラルドはこの街に留まることを選んだ。
「おーい、用心棒さんや。魔道の街まではもうそろそろかい?」
この日もラルドは、砂漠を越えて魔道の街までやってくる客の護衛にあたっていた。その客の一人の男が、ラクダに乗り、ラルドの頭上から声をかけてくる。
「ああ……もうじきだ」
「そうか。ありがとうよ」
ラルドのぶっきらぼうな物言いにも腹をたてることなく、感謝まで述べてくれる。今日の客は当たりだ。まあ、砂漠の外から来た人は街の魔法使いとは違って、用心棒に特別冷たいといったことが少ない傾向にはあるのだが。
「例の『ハイエナ』とやらに襲われたらどうなることかと思ったが、奴らに出くわすことなく、無事に来られて良かったよ」
「ええ。おかげでこの子も無事、魔道学院に入学できるわね」
「うん! 僕、早く魔法使いたい!」
どうやら客は、息子を魔道学院に入学させるため、砂漠の外からやってきた家族らしい。
(こんな幼い子でも適正さえあれば、俺とは違って、簡単に魔法が使えるんだよな…………)
ふいに、幼子相手に妬ましいような感情が湧き出てくる。それに気づいたラルドは自分を保つため、息を大きく吸って、深く吐き出す。
そう、ラルドは魔法というものに憧れを抱いていた。魔道の街という環境で長年暮らしていたならば無理もないだろうが、魔法の才がないと分かっていながらも、ラルドはその憧れにも似たような執着を捨てきれずにいた。
そのようなことを考えていたせいかもしれない。ラルドはいつもよりも、周りの異変に気づくのが少し遅れた。
「…………⁉」
砂の中から、砂に近しい色をした黄土色のマントに身を包んだ男たちが一斉に姿を現した。その数、五――いや、六人ほどに、いつの間にか周囲を取り囲まれている。
「きゃあああっ!」
「ハイエナだっ!」
客の男が悲鳴にも近い声を上げる。
「落ち着いて。……俺のそばから、離れないようにするんだ」
ラルドはそう言うが、客の女性と子どもは特に、平静を失っている様子である。
「ほう、なかなか金を持ってそうな家族じゃねぇか。当たりだな」
「砂漠のハイエナ」の一人が、ニヤニヤと笑みを浮かべながら、じりじりと近づいて来る。そして剣を空に掲げ、大声で叫ぶ。
「おーし、やっちまえ!」
その男の合図で、「ハイエナ」たちが剣を手に、一斉に襲い掛かってくる。ラルドは客の家族の前に進み出て、まずは一人目のハイエナを斬りつける。そして次は真逆――客の背中側から現れたハイエナの剣を受け止め、その勢いでハイエナの体ごと向こうへ押し倒す。そして次にやってきたハイエナ――リーダー格だと思われる、先程合図を出していた男と剣を交える。
「こいつ……なかなかやるな」
剣と剣でせめぎ合いをしながら、男は少し驚いたように片眉を上げ、ラルドを見る。
「だが……用心棒さんよ。お客の方が、お留守だぜ?」
いやらしく笑みをたたえたハイエナのリーダーの顔を見て、ラルドははっとして辺りを見る。他のハイエナたちが、客の三人を取り囲んでいた。
「ひいっ、お助けを……!」
「うわーん! ママ、パパーー!」
(まずい、客が殺されては――――)
「!」
ラルドが客に気を取られている隙に、手の力が緩んでしまったのだろうか。ハイエナのリーダーがせめぎ合いを制し、ついにラルドの剣をはじいた。
剣は遠くへ飛んで行き、ラルドは丸腰となってしまった。
「へっ! なかなかの腕だったが……剣士が剣をなくしちゃ、終わりだねぇ」
ハイエナのリーダーはそう言って、ラルドの喉元に剣を突き付ける。
「あばよ、砂漠の用心棒さん」
死を覚悟したラルドはその時、ハイエナの後ろに突風――いや、砂の色をした竜巻のようなものを見た。
それはものすごい速度で迫ってきて、ラルドと目の前にいるハイエナも含め、このあたり一帯を巻き込んでゆく。
「うわっ! 何だぁ⁉」
ラルドは飛ばされないように踏んばろうとする――――が、なぜかラルド、そして客の三人だけは飛ばされることなく、その竜巻はハイエナたちのみを巻き込んだまま、遠く彼方へと連れ去ってゆく。
「あばよ、砂漠のハイエナさん」
そう叫ぶ声が頭上の方から聞こえ、ラルドは声のした方を見る。するとすぐ近くにある小さな砂丘の頂上に、赤く長い髪を持つ男――と思われる人の姿があった。
「おい、あんたら、大丈夫か?」
砂丘の頂上からこちらを見下ろしている赤髪の男が、ラルドたちに向けてニッ、と笑う。
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