星空に響くダンス

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星空に響くダンス

 高校2年生の私は、いつも何となく日々を過ごしてる普通の子。勉強もそこそこだし、部活も幽霊部員。これといって何かに自信があるわけでもなくて、「まあ、こんなもんだよね」って、どこかで諦めてた。

 だけど、そんな私にも唯一熱くなれるものがある。それが、「Stellar☆Heart」っていうアイドルグループ。

 特にセンターのヒロが、本当にすごい。ステージでの笑顔、自信たっぷりの歌声、ファンに向けて話す言葉の全部がキラキラしてて。何度もヒロの歌に救われたし、「私もこんなふうに自分を信じて生きられたらな」って思った。でも、そんなの夢のまた夢で、行動に移す勇気なんてこれっぽっちもない。


  そんな私に転機が訪れたのは、親友のミカの一言だった。

「アヤ! Stellar☆Heartのファンミーティング、地元でやるんだって! 行くしかないじゃん!」

「えっ、無理無理! 私なんかが……行ってどうすんのよ」

「もう無理って言ったってダメだよ!私は応募しちゃうから!っていうか、絶対ヒロに会えるチャンスだよ、逃すのもったいない!」

 私が何か言う前に、ミカはスマホをタップして応募の画面を見せてきた。

「うわ……もうこれ、行くしかないじゃん……」

 ミカに半ば押し切られる形で、ファンミーティングに参加することに。正直、不安のほうが大きかった。

 

 心臓バクバクのまま会場に入ると、熱気でいっぱい。目の前に広がるヒロの姿……

 本当に目の前にいる!

 その瞬間、夢みたいな光景に頭が真っ白になった。

  ついに、私の順番が来た。周りの景色がぼやけて見えるくらい、心臓の音が大きく響いてる。目の前には、スクリーン越しでしか見たことがなかったヒロが立ってる。本当に、あのヒロだ――って思った瞬間、足が震えだして一歩踏み出すのが精いっぱい。何度も頭の中で練習したのに、ちゃんと話せる自信がまったくなくなった。


「こんにちは。名前、教えてくれる?」

 その声は、まるで透明な水が流れるようで、周りのざわめきが一瞬だけ消えた気がした。ヒロが私だけを見て話してくれてる――それが信じられなくて、私は一歩後ろに下がりそうになった。「何て返事しよう」って焦るけど、口から出た言葉は思った以上に震えてた。

「ずっと……ずっと応援してます!ヒロさんの歌があったから、私、本当に助けられました……」

 なんでこんなに泣きそうなんだろう。いつもは画面越しで聞いてた言葉が、今は直接私に向けられてる。この瞬間が現実だって、信じられないくらいだった。

 ヒロは少しびっくりした顔をしてたけど、すぐに優しく笑ってくれた。あの笑顔、きっと誰でも幸せな気持ちになれる。

「ありがとう。君がそう言ってくれると、僕もすごく頑張れるよ。これからも一緒に進もうね。君も、自分を信じたら絶対に輝けるから」

 その言葉が、心の奥深くまで染み込んでいくのを感じた。

 まるで、ヒロの手でそっと背中を押されてるみたいだった。「自分でも輝けるのかな」っていう希望が、心の中で少しずつ広がっていく。

 サイン入りのグッズを受け取るとき、ほんの一瞬だけヒロの手が触れた。その温かさが、何か魔法みたいで、自分の中に大切にしまっておきたいって思った。

「ありがとうございました!」

 精いっぱい礼を言いながら、最後にもう一度ヒロの顔を見た。そのとき、ヒロがちょっと頷いてくれたのが「君の言葉をちゃんと受け取ったよ」って言ってくれてるみたいに感じた。


 列を抜けたあとも、胸の鼓動は収まらない。

 目を閉じても、あの言葉がずっと浮かんでくる――「君も輝ける」。

 涙を拭きながら、何度も何度も繰り返して心に刻んだ。

「私も、信じてみよう……自分のことを」


 その夜、ふと目に入ったのは、昔使っていたダンスシューズだった。

 もう履くこともないと思ってクローゼットの奥にしまい込んでいたものだ。それを手に取って眺めていると、不思議と心がざわついた。

「もう一度、やってみようかな」

 そんな思いが、胸の奥に湧き上がってきた。


 次の日、私は思い切ってダンス部の部室に顔を出した。

 最初の練習は足がもつれるし、うまく動けないしで散々だったけど、「自分を信じて進めば輝ける」というヒロの言葉が頭をよぎって、何とか頑張れた。

 部活の仲間が「いい感じじゃん!」って声をかけてくれるたびに、少しだけ自信が持てるようになった。 でも、順調な日々だけじゃなかった。

 

 文化祭のリハーサル中、私のミスで振り付けが大きくズレてしまった。みんなに迷惑をかけたと感じた瞬間、もう自分なんか辞めたほうがいいのかもって思った。

 その夜、誰もいなくなった部室で、私は何度も同じステップを繰り返した。

 うまくいかない自分に嫌気がさして、鏡に映る姿がどんどん情けなく思えてきた。気づけば膝を抱えて座り込んでいて、涙がポタポタ床に落ちていた。


  家に帰って、大好きなヒロの歌「Eternal Glow」を聴いてみると、そのタイトルがふと心に引っかかった。『永遠の輝き』という意味――その言葉が、まるで今の私にそっと寄り添うように感じられた。

 スピーカーから流れる歌詞が胸に響く。


『光を信じてごらん 君だけの道がある 暗闇の中でも その瞳を閉じないで』


 その歌詞が、まるでヒロが今の私に語りかけてくれているように感じた。失敗や挫折で傷ついていた私の心に、新しい道を照らす光を灯してくれた気がする。その瞬間、どうしようもなく落ち込んでいた私の背中を、そっと押してくれるような温かさだった。


  次の日、私は部室に行って、みんなに謝った。そして、「本番までに絶対ミスしないようにする」って約束した。

 振り付けを何度も練習して、足が痛くなっても「これでみんなに迷惑をかけない」と思いながら頑張った。



 文化祭当日、体育館のステージ裏で私は深呼吸を繰り返していた。

 緊張で頭が真っ白になりそうだったけど、あの日、ファンミーティングでヒロに言われた「自分を信じて」という言葉が、胸の奥で私を支えていた。

 「大丈夫、大丈夫……」とつぶやきながら、ダンス部の仲間と目を合わせた。みんなの「やれるよ」という笑顔に少しだけ安心したけれど、やっぱり不安は消えなかった。

 そうこうしているうちに、ついに私たちの番が来た。


 ステージに上がると、目の前には客席がいっぱいに広がっていて、その視線のすべてがこちらに向けられているのを感じた。

 ライトが私を照らして眩しくて、手足が固まってしまいそうだったけど、音楽が流れ始めると自然と体が動き出した。リズムに乗るうちに、練習してきたすべてを出し切ろうという気持ちが湧いてきた。


 サビの部分に差し掛かったとき、ふいに頭の中で浮かんだのは、あの日ヒロに励まされながら聴いていた「Eternal Glow」の歌詞だった。


『転んだっていいんだ また立ち上がればいい』


 あの歌詞が、リハーサルで失敗した私を思い出させながらも、「その失敗があったからこそ、今ここに立てているんだ」と思わせてくれた。

 振り付けが体に馴染むように流れ、一つひとつの動きを楽しみながら踊っている自分に気づいた。自分を信じてやってみることで、こんなにも違う景色が広がるなんて――心の中に小さな感動が広がった。


 最後のポーズを決めた瞬間、体育館いっぱいに響く拍手が耳に飛び込んできた。それは、自分が今までで一番輝いていた瞬間だったと思う。仲間と目を合わせると、みんなが笑顔で「やったね!」という表情をしていて、気づけば涙がこぼれていた。


 夜、星空を見上げながらヒロの歌をもう一度聴いてみた。ステージで感じた自信と達成感が心に蘇る中で、歌詞の一節が再び私の胸に響いた。


『君の輝きはきっと 誰かの星になる』


 その言葉を受け取ったとき、私はそっとつぶやいた。

「私も、少しだけ輝けたよね?」

 そして、次の夢が自然と浮かんできた。「今度は私が、誰かを笑顔にできる存在になりたい――そんな道を歩いていけたらいいな」と。

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