Just The Two Of Us

天陽

1.

 幹線道路の広く何本にもわたる車線を横切り、道路脇に松林が広がる狭い道路に出た。それまでラジオMCは元気に喋りを展開をしていたが、剥がれた舗装を必死に蹴るタイヤの音でほとんど聞こえなくなってしまった。

 「おい。音量デカくしろよ」

 後部座席から太い声がして、ベイティーは左手をハンドルから離して音量調節のダイヤルを回した。しかし、右手で握っていたハンドルのバランスを崩して、タイヤが横に滑り出した。

 その途端、スピーカーから大爆音でロックな歌声と爆音ベースが流れてくる。

 ベイティーの心臓が飛び跳ねて、慌ててダイヤルを逆に回した。

 車内がしん、とした。

 「おい、葬式の前に俺たちが先に死んでどうするんだよ」

 「初めての本番で緊張してるんじゃないのか?」

 がはは、と大きく口を開けて笑う二人の声に、ベイティーは応じない。

「続いてお送りするナンバーは、最近若者に人気で、チャート3週連続で1位を飾っている期待の新星の新曲、どうぞ」

 陽気なコールをするMCの声のあとに、音楽がフェードインする。歌詞の中身をすっぽ抜かした流行曲がガンガンと鳴り響く。

 「局を変えてくれ、今から葬式だってのによ、こんな飛び跳ねたインチキ音楽聞きたくねんだ」

 ベイティーはもうひとつのダイヤルを回して、砂嵐から音を探った。ベイティーは手を離した。グローヴァー・ワシントン・ジュニアのJust the Two of Usだ。

 青信号になって、車は一つ、空咳をしてから走り出す。

 心地よいベースの音に乗せて、コーラスとエレキピアノが息をするように歌い上げる。

 

We look for love, no time for tears (愛を探しているんだ、泣いてる暇な んてないよ

Wasted water's all that is 泣いても意味がないよ

And it don't make no flowers grow… 君の涙じゃ花は咲かない…)



「俺たちに対する皮肉みたいだな…」

 天を仰ぐようにシートにもたれかかったクリアが、そう言いながらも心地よさそうに目を閉じるのが、ミラー越しに見えた。



 どんどん、車は街から離れていく。

 これから男たちは泣きに、葬式に行く。







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