可愛くしたいだけだから

ゆずリンゴ

1

「どうした龍之介りゅうのすけ。気になる服でもあったか?」


「……えーとね。あの服」


「……龍之介。あのようなピンクのヒラヒラとした服はレディースといってな、女の子が着る服なんだ」


「あ、そうなんだ……」


「あぁ……そのじ代わりにあの服とかどうだ?お前の好きなヒーローの柄が入っているぞ」


「うん。ありがとう」



俺、滝登龍之介ろうとうりゅうのすけは可愛いものが好きだ。17年間という年月を生きて尚、それは変わらない。

俺は可愛い服を着てみたいし、化粧をして美しく顔を整えみたい。

しかし男として生まれた俺はそれが出来ない。頑固者のじいちゃんに言われた。女々しい男は舐められると。男は女を守れるよう強くあれと。

きっとじいちゃんの言ってることは間違ってはいない。ばあちゃんはじいちゃんのカッコイイ昔話を良くしてくれるし、強く育った俺を色々な人は頼る。


けど、いつも胸に穴が空いたように生きていた。今の自分を貫くほど本当の自分を否定されるようで、胸が痛んだ。



ある日、SNSでとある画像を見かけた。それは一見、可愛い女性の画像。けれど実際は男の人がメイクをして、可愛い服を見繕ったものだった。その画像を見て「すごい」と思った。それは男がここまで可愛くなったことだけじゃなく、SNSという不特定多数の目に晒される場で性別を明らかにした上で発信したことも。

馬鹿にされるとか、奇異な目で見られるのは怖く思わないのだろうか?

―――とそんな疑問を持つが、その答えは返信の欄に乗っていた。


『男がそんな格好して気持ち悪い』


心無い言葉が乗っている。称賛の方が多く占めるがこういった意見を持つ人はやはりいるのだ。

そしてそれに対する言葉が


『こんなに可愛いのに目、腐ってるのか?可愛いに性別なんて関係ないんだよ』


少々強めの言葉だが、だからこそこの人の『芯の強さ』を感じる。本当に強い人というのはこういう人なのかもしれない。



「じいちゃん。明日さ良かったら出かけない?」


「ん……龍之介からの誘いとは珍しいな。うれしいな。どこに行きたい?」


「明日になってから言うよ」


「それは、楽しみだ」


あの人を見て数日、自分の心に寄り添って、自分の答えを出した。じいちゃんには、その答えを最初に見て欲しかった。



そして買い物当日。家を出る前に可愛く顔を化粧して、オーバーシルエットの白くふわふわとした可愛い服と下に茶色のボトムスを着用した姿でじいちゃんの前に立ってみた。

ただ髪だけは、元の短い男のままで。

そして、言葉を口にする。


「じいちゃん。俺、可愛い服が好きなんだ。俺、可愛いものが好きなんだ。今まで、このこと否定されんの怖くて、言えなかったけど……本当の俺をじいちゃんには見て欲しかった」


勇気をだしてそう言うと、じいちゃんは何を言うでもなくただ真剣に俺の目を数秒じっと見つめた。それから玄関の方に向かって後ろを向きながら言った。


「買い物、どこに行くんだ」


目的地まではじいちゃんの車で向かった。

場所は幼い頃にも行ったショッピングモールだ。


到着して黙々とモールの中を歩く。

ふと振り返って俺の事を見るなり顔を逸らす人が何人かいて。

それから歩いて可愛いフリフリとした服の売っている場所で何着か試着して。

気に入った物を買おうとしてレジへと向かった。そうして自分でお金を出そうとすると―――


「払おう」


じいちゃんが財布を出した。


「いいよ。俺の服だから」


「可愛い孫の前だ。いい所みせさせてくれ」


「……うん。ありがとう」


その言葉をなんだが断れなくて。


モールを後にすると、昼食にカフェに行った。

ふわふわとしていて可愛いパンケーキが売りの場所。

じいちゃんはコーヒーと、サンドイッチを何を言うでもなく食べていた。


「龍之介、美味いか」


じいちゃんが、突然聞いてくる。


「美味しいよ、じいちゃんも食べる?」


「いや、大丈夫だ」


「そっか」


……それから、少し沈黙が続いてじいちゃんがまた口を開いた。


「今まで、すまなかった。お前の事を理解してやれないで」


「そんな、謝らないでよ」


「改めてお前を見て思った。……お前は女々しくなんかないし、強い子だ。強く育ったんだな」


「じいちゃん……うん」


それからまた、沈黙に戻った。

会話はなかったけど、心がスっと晴れた気がした。


俺は、可愛い物が好きだ。でも別に男が好きな訳でも無く、女の子になりたい訳でもない。ただ可愛くしたいだけだけの、男なのだ。


だから俺はこれからも、自分を生きるのだ。


<完>






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可愛くしたいだけだから ゆずリンゴ @katuhimemisawa

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