銀髪村娘と砲金のドナーブッセ KACバージョン 2

土田一八

第1話 聖女のあこがれ

 私はエレーヌ ジョゼフィーヌ セフリアン。ブロワ王国の神父によって召喚された聖女だ。人は私のことを『幟槍の聖女』とか『異色の聖女』とか『吸血の聖女』などと呼んでいる。まあ、どれも事実に基づいた二つ名だからハズレではない。


 むしろ、ハズレは私の今の現実であろう。なぜなら、ここは牢獄だからだ。


 聖女の力を失った。


 ただ、それだけの理由で。



「出ろ」

 看守が扉を開き、私は外に引き出される。鉄格子の馬車に乗せられ広場に連行される。


 処刑場である広場には背の高い断頭台が据えられ、群衆や兵士がその周りを取り囲む。しかし、罵声雑言は飛び交わず、人々の囁きさえ聞こえず静まり返っていた。

 役人が罪状を朗読し死刑執行を宣言する。そして、手際よく処刑台に引き立てられ、私の首に首枷が嵌められる。処刑執行人がロープを切断した時、独特の発砲音がした。


 ドゴォ‼


 ガキンっ‼


 魔導障壁が断頭台の刃を止めていた。そして再び独特の発砲音がすると、断頭台は粉砕された。


「間に合った?」

「当たり前だ」

「それも、そうだねっ!」

「ヴィア!露払いを頼む!援護する」

「任せて!」


 なにやら騒々しい。

「賊だ‼」

「賊はお前らだ‼」

「ぐはっ⁉」

 兵士たちがランスを振り回している騎士に吹き飛ばされている。その後に馬に乗っている少女が2人、それに続く。

 ドゴォ‼

 時折、独特の発砲音が轟く。悲鳴や怒声が聞こえるが、かき消されてしまう。そのうち、処刑台にどかどかと複数人の足音が荒々しくやって来て首枷が外され、後ろ手で縛られているロープが切断された。



「助けに来ましたぞ。我が聖女様」

「あなたは!」

 声の主は間違いなくギルだった。

「何をしてる。早くお立ちなさい」

「領主様⁉」



「何を寝ぼけている!ぼやぼやしてないでさっさと立て!」

 ドゴォ!

「エアエフネン!ヒルシュクーゲルパケットバレーレ!」

 えっ⁉怒られた…?ゲルマニア語?私は言われた通りに断頭台から立ち上がるとラッパ銃を持った少女に腕を掴まれる。なぜか彼女からは温かみが伝わって来る。

「助けに来た。一緒に来い!」

 その後は馬に乗せられ、何とか逃げ出すことに成功した。そして途中で船に乗る。

「出してくれ!」

 すぐに船は動き出す。


「自己紹介がまだだったね。俺はルーメア フェリア。バルドランドの勇者だ」

「私はヴィクトーリア アンネ イラストリート。スコルディア出身の大騎士よ」

「ぼくはアルヤ。ラーフランドで冒険者をしているよ」


「わ、私はエレーヌ ジョゼフィーヌ セフリアン。ブロ…いえ、フラリスの聖女です」

「では、君はただいまから、ヘレーネ ヨゼフィーナ セフリートと名乗るがよい」

 銀髪の少女はそう言った。他の2人とは違い、彼女はその辺の村娘という出で立ちだ。


「ヘレーネ ヨゼフィーナ セフリート……」


 単なるゲルマニア式表記だけど、この時、私は別人になれた気がした。

「さすがは聖女。一発で名前を覚えたぞ」

「ヴィアだってそうだったじゃん?」

「そうだったね…」

 ヴィアと呼ばれた少女は少し寂しそうに笑った。

「ヘレーネ。君を救出したのは、君を召喚した神父から依頼を受けたからだ」

「神父様が?」

 銀髪の少女は頷いた。

「それともう1つ。君を治療して聖女の力を取り戻して欲しいとの依頼も受けている」

「聖女の力…」

 私は両手を胸に当てた。

「でも、私には…」

「大丈夫。時間はかかると思うが、回復は可能だ」


 私は、私は…!


 その一言にあこがれを感じたのだ。私にはない魅力的な彼女に。



『女性のお悩み、相談に乗ります』

 本格的な治療はバルドランドで本格的に始まった。かつての戦闘民族であるバルド人の経血はすごい。穢れは完全に祓われ、聖女の力はその輝きを取り戻した。わずか十日で。フラリスではとても信じられないことだっだ。それができたのはやはりルーメアのおかげだった。ちょっと荒療治をしたけれど…えへへ♡

 まあ、今はその後遺症というか副作用がただ漏れしないようにしてはいるが…。


 無理かも…♡


                                つづく

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