始まりは、憧れ
此木晶(しょう)
始まりは、憧れ
一番最初は憧れでした。
残念ながら、先輩ではないです。私、先輩の事雛乃ちゃんに紹介されてから暫くは怖い組織に入っている人だと思ってましたから。一つしか離れてないのに、雰囲気あり過ぎなんですよ、あの人。
雛乃ちゃんは、颯爽という言葉が本当によく似合っていました。
いつも一切の迷いがないみたいに風を切るように進んでいました。短く切り揃えた髪と艶のある黒縁メガネが冷たく見せる時もありましたけど、実際は芯の通った強さの象徴でした。格別オシャレって訳でもないのに何故か一挙手一投足がキマる。
視線が合うと、一瞬メガネの奥の瞳が鋭くなって、凛として、チョットだけ意地悪そうで、それがまた最高に格好良くて。
それなのに、ふとした拍子に見せる仕草が、乱れた髪を耳にかける時や、メガネを押し上げる指先が、同性でもドキッとする位妙に色っぽくて。
そりゃ憧れますよね。
仲良くなって、お互いの家に遊びに行ったり泊まったりするようになるとまた別の面が見えてきて。
先輩を相手にしている時だけ、何処か抜けているというか甘えているっていうか。
普段は無防備な可愛さはあっても甘さなんて一切感じませんでしたから、衝撃でした。
先輩の方も先輩の方で、いつも達観したみたいに表情がなくて、世界に興味がないって顔をしているくせに、雛乃ちゃんの相手をしている時だけは、しっかりと雛乃ちゃんを見て、仕方ないって愚痴りながら、雛乃ちゃんの無茶振りに付き合ってるんです。
しかも大体なんでも器用にこなして、それで雛乃ちゃんが喜ぶと薄っすら笑みを浮かべるんですよ。
ズルいですよね。
普段は執着なんてないですって顔をしているのに、実際はすごい熱を抱えているなんて。
雛乃ちゃんが羨ましかったです。
積極的に関わろうとしないのに不思議と周りが放っておかない人の関心を独り占めしているんですから。
嫉妬だってしました。敵う訳ないじゃんって。
雛乃ちゃんがいなくなってからは……。
先輩に少しでも世界に興味を持ってもらいたくって、頑張ったつもりです。
雛乃ちゃんを通してでしか世界を見ていないような人でしたから、一寸でも興味を引けるように真似もして。
だから、譲りません。ね、草千里先生?
始まりは、憧れ 此木晶(しょう) @syou2022
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