リベンジ・マネー 〜サレ妻は監視で稼ぐ〜

Ray

完璧な日常の亀裂

第1話

麗子の指先が鮮やかな朱色のロゴをスクリーン上で微調整していた。背後では、青空が広がる六月の陽光が高層ビルのガラス窓を通して白いデスクトップを照らしている。


「ああ、もう少し右に」


彼女は眉間にうっすらと皺を寄せると、素早くトラックパッドを操作した。ロゴが画面上で数ミリ移動する。彼女はわずかに頭を傾げ、画面全体のバランスを確認した。完璧。彼女の口元が緩む。


藤原麗子、35歳。株式会社クリエイティブ・ビジョンのアートディレクター。10年のキャリアで培った彼女の目は、わずか1ピクセルのずれも見逃さない。


「藤原さん、例のプレゼン資料、もう準備できた?」


声に振り向くと、ドアの前に立つ新人デザイナーの佐藤が困惑した表情を浮かべていた。締め切りは明日の朝だったはずだ。


「あと30分で完成よ」麗子は冷静に告げる。「何かあった?」


「あっ、いえ…クライアントから急に前倒しの連絡があって…」


麗子は内心でため息をつきながらも、表情を変えずに微笑んだ。


「分かったわ。15分後に送るわね」


「すみません、ありがとうございます!」


佐藤が慌てて頭を下げ、去っていく。麗子はスマートウォッチを見た。午後7時15分。帰りが遅くなるわね、と思いながらも、彼女の手は素早く動き続けた。

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