5章③

       ◆  ◆  ◆


「以上のことから、スワロークラフトと双羽商会。この2社に何らかの繋がりがあるのはほぼ間違いないかと思われます。昨日訪ねた店に聞いたところ、どうやら夜のうちに設置されたようです」報告を終えた。

「奴らの情報ならやつがれも得ている」

「スワロークラフトのことですか?」

「裏の情報屋を問い詰めた」報告を始めた。「もとは小さな密輸業社らしいが、数ヶ月前から表社会へ進出しようと動き始めていたようだ。その頃から奴らのトラックが頻繁に目撃され始めているらしい。それに今回の事を照らし合わせると辻褄が合う。何らかの関係があるのはほぼ間違いないだろう」

「よっしゃあ。そこまで分かりゃあ、あとは楽だぜ」

「油断するなよ、立原。ここで焦れば、全てが水泡と帰することにもなる」釘を刺した。「しかし、この情報を得られたのは大きいですな」

「他に報告がある者はいるか?」

「私からもいいかな?」

 執務室の扉が開き、一人の男が入って来た。

 その瞬間、執務室にいた全員が跪づいた。

 やって来たのは鴎外だった。

「楽にしてくれて構わないよ」

 その場で立ち上がった。

「急に来てすまないね。昨日破られた倉庫に保管していた物のリストアップが終了したとの報告があったものでね」

 リストが配られ、各々が目を通した。

「どれも高値で取引される物ですな」

「最近では欧州の骨董品アンティークが人気、とのことです。希少な物は闇の市場で、かなりの高額で取引されています」

「盗まれた物は、どれも貴重な品ばかりだ。正直、受けた打撃は大きい」

「首領自らお持ちいただかずとも、我々が取りに伺いましたのに・・・・・・」

「ここへ来た目的は別にあるからね。これはそのついでだよ」目つきが変わった。「本題はこれだよ」

 先程とは別のリストを手渡した。

 リストには首飾りネックレスや指輪といった宝飾品や、金剛石ダイヤモンド紅玉ルビーといった宝石が載っていた。

「先ほど入った連絡でね。密輸宝石の鑑定士が襲われ、卸業者に渡す予定だった宝石が奪われたらしい」

 鴎外が差し出したリストは、奪われた密輸宝石の一覧だった。

 ポートマフィアの宝石流通経路は運び屋や故買屋、鑑定士に至るまで横浜イチを誇っている。

 運び屋が持ち込んだ宝石を故買屋が買い取り、出所が判らないように加工屋が加工する。そうして生まれ変わった宝石はマフィアの息のかかった鑑定士によって正式な鑑定書をつけられ、卸業者によって一流宝石店の店先に並べられる。

 常に莫大な利益を生む密輸宝石業は、ポートマフィアにとって非常に重要な収入源のひとつである。

「我々ポートマフィアの本質は暴力を貨幣とした経済行為体だ。暴力を返されることは支出であり負債だ。これ以上の負債は許されない。危害を加える敵には徹底反撃を。強めに噛みついてやりなさい」

「かしこまりました」樋口たちの方へと向き直った。「双羽商会の調査は樋口たちに一任する。他の者たちはやつがれと共にスワロークラフトの調査にあたれ」

 それぞれ部屋を後にした。

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