あのときに戻れたら

またたびやま銀猫

第1話

「申し訳ない……」

 彼はしょんぼりとうなだれて謝罪をする。


「私に謝られてもね」

 私は正面に座る彼にため息をついた。


 彼は昨晩、家に帰って来なかった。

 だから私は寒い中、車の中で一晩をすごさざるを得なかった。

 近所迷惑になるかもしれないからエンジンをかけることもできず、がたがた震えながらコートの上から毛布にくるまってすごした。


「だけど、悪いのはあの女なんだ! 浮気なんてするから、だから俺はつい怒って……たった一夜のあやまちなんだ! あのときに戻れたら、俺はきっと間違えない!」

 彼は必死になって言い訳をする。


 私はまたため息をついた。

 女のところへ行っていたと言う彼は、朝になって血まみれで帰ってきた。麻薬の捜査ではりこみをしていた私ともう一人の刑事は、慌てて車から降りて彼を尋問し、殺人を認めたために緊急逮捕した。


「殺人はね、一夜のあやまちですまないんですよ。浮気したからって殺すなんてもってのほか。しっかり反省してくださいね!」

 私は刑事らしくびしっと言う。

 彼は取調室の中、しょんぼりとうなだれた。

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あのときに戻れたら またたびやま銀猫 @matatabiyama-ginneko

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