精一杯の社交辞令
紗久間 馨
末永くお幸せに
「あきちゃん、こちらが私の夫になる人、です」
幸せそうな笑みを浮かべながら、
「すごく素敵な人だね。うん。良い家庭を築けそう。おめでとう」
当時、
仕事で嫌なことがあっても、彼女らのおかげで乗り越えられた。生きる理由と言ってもいいほどに好きだった。
「大丈夫?」
「大丈夫です。ありがとうございます。想像以上にすごい熱気ですね」
「そうなんだよね。メンバーがテレビに出てから急に」
メンバーの一人がテレビ番組に出演したことがきっかけで、注目度が高まっていた。
「私もテレビで見て好きになったんです」
ファンになったばかりの
年下のように見えて、
ふにゃりと柔らかな笑顔を見せた
心を奪われた
知らないでしょ?
あの時から私の推しは
アイドルを口実にして、同じファンとしてSNSで繋がって、一緒にイベントに行って・・・・・・。
なのに・・・・・・。
あれから数年が経過し、推していたアイドルグループは一人が卒業して三人になった。
だから、
「
拒否して悲しませても、式に出席しても、
「絶対に行くね。
「ありがとう」
嬉しそうな笑顔を見て、
結婚式も披露宴も、つつがなく執り行われた。
白いドレスもピンクのドレスも、
新郎新婦が出席者を見送る。
さらっと祝いの言葉を伝えて帰ろうと、
「あきちゃん、待って」
「これ、あきちゃんに」
ブーケを差し出され、
「え? 何?」
「ブーケはあきちゃんにもらってほしいの」
だからブーケトスをしなかったのか、と腑に落ちる。
「どうして?」
「あきちゃんは私のあこがれの人だから。あの日、イベントで声をかけてくれた時、かっこいい人だなって思ったの。こんな女性に私もなりたいって」
その「あこがれ」が
「そしたら、素敵な男の人にも出会えて。今日という日を迎えられたのは、あきちゃんのおかげなの。だから、感謝の気持ちを込めて、ブーケを渡したい。もらってくれる?」
「じゃあ、ありがたく頂戴します」
渡されたブーケをそっと腕の中に収めると、甘い香りが体内に染みていく。
「また一緒にイベント行こうね」
「そんなんじゃ、愛想を尽かされるわよ」
「僕はそこのところは理解してますから。今後も妻と変わらない付き合いをお願いします」
夫になった男は丁寧に頭を下げた。
「わかりました。後がつかえてるから、もう行くね」
「本当にありがとう。またね」
幸せを具現したような
「またね」
この場にふさわしい社交辞令だ。
二人の道が交わることは、もうない。
大好きだよ。
だから、さようなら。
どうか末永くお幸せに。
精一杯の社交辞令 紗久間 馨 @sakuma_kaoru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます