第47話 シェルヴィ様は伝えたい!
「シェルヴィ様、一体何を……」
何一つとして理解出来ていない俺を見て、パパさんは言う。
「ハースくん、僕は2人を応援することに決めたよ。
でも、ヒュースはまだ認められないってさ。
ほらっ」
パパさんの指差す先には、険しい顔を浮かべるママさんがいた。
「シェルヴィ、あなたはまだ7歳なのよ。
でも、これは本人が決めたことだし、私が口出しすることでも……。
いやいや、私はシェルヴィの母親だし、多少は口出ししても……。
うーん……」
これだけ困っているというか、悩んでいるママさんを見るのは初めてだ。
「ついにこの時が来たのにゃ」
「で、でも、まだ私は諦めてないです……にゃ」
「全く、シロらしくて安心したにゃ」
「まだまだ時間はあります……にゃ」
クロさんとシロさんの様子も、いつもと違う。
というか、このメンバーは何だ?
「な、何が始まるガウ!?」
「お、俺様にも何が何だか……」
「シェルヴィちゃん、頑張れ」
「うちは確かハースくんを探してて、やっと見つけて、どうしてベンチに座ってるのかしら……?」
とにかく勢揃いって感じだ。
パパさんの言葉も気になるし、ママさんも落ち着きがないし、もうさっぱり分からん!
「すぅ、はぁ。
我が今日伝えたいのは、ハースについてなのだ!」
「えっ?
俺について?」
「正直、ハースがエモーラに選ばれたと聞いた時は、すごく驚いたのだ。
でもそれは同時に、我の気持ちに整理がついた瞬間でもあったのだ。
えーっと、あと、ここにみんなを集めたのは、みんながハースを追いかけるからなのだ……」
「シェルヴィ様……?」
少し緊張しながらも、自分の言葉で話をするシェルヴィ様の姿。
その姿は正しく、魔界を背負って立つ魔王の娘である。
「だから、我はここに宣言する!
パパ!」
「はい、どうぞ」
シェルヴィ様の声に合わせ、パパさんは指パッチンを鳴らした。
「えっ、身体が浮いて……。
うええええええ!」
すると、俺の身体が宙に浮き、シェルヴィ様の横へと強制的に運ばれた。
「このハースを、我の婚約者とする!」
「……え?」
「ふっふっふ、ここに集められたハースのことが好きな者よ。
よく聞くのだ!
我が結婚出来るのは、最短でも16歳になる9年後。
だからもし、ハースのことが諦められないのならば、それまでにハースの心を奪ってみせよ!
我からは以上なのだ」
シェルヴィ様はそう言い終わると、俺の頬に優しくキスをした。
「シェルヴィ様!?」
「こ、これで、我が1歩リードなのだ……!」
しばしの沈黙のあと、集められた者たちはそれぞれの反応を見せた。
「シェルヴィ、よく言ったね」
「ハース様流石です!」
「おめでとうございます!」
パパさん、レオル、男性隊員たちは大きな拍手を送ってくれた。
「シェルヴィ……」
「ハース様……」
「……」
ママさん、フェンリアル、女性隊員たちは口を開けたまま放心状態に陥った。
「上等じゃない……」
「まだ時間はあります……にゃ」
ディアンナ、シロさんは嫉妬の目をシェルヴィ様に向けている。
「わーお、すごく面倒事の予感」
ただ、こんな時でも安心できる光景がそこにはあった。
「なっ……!
この飴ちゃん、すごく美味しいにゃ!」
「えっ、ずるいです!
その飴、私にもください!」
「にゃっ!?
し、仕方ないにゃ……。
1つだけにゃ」
「ありがとうございます!
うーん、美味しい!」
明らかに混乱しているこの場で、ポケットから取り出した飴を舐めるクロさんと、それを貰うナタリアさん。
この2人とは、仲良くしておいた方が色々助かりそうだ。
「まぁとりあえず……俺は逃げさせていただきます!」
俺は全力で魔王城裏側へと走った。
とにかく今は、面倒事から離れて1人になりたい。
そんな気分だからだ。
しかし、状況が状況であると共に、メンバーがメンバー。
「ハ、ハースが逃げたのだ!」
「ハース!
あなたはシェルヴィが選んだ相手なのよ!」
「結局、ママさんはどっちなんですか!」
正直、追ってくる実力者たちを振り切れる自信はない。
「ちょっと一旦、タイムでお願いしまーーーーす!」
それでも、俺は走って逃げることしか出来ない。
この普通じゃない異世界から逃げるために。
「やっぱり、普通が1番だぁぁああああ!」
シェルヴィ様7歳編 ~完~
世話役転生 〜生きるためなら、魔王娘の世話役くらいなってやる〜 ゆざめ @yuzameto
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