第43話 ディアンナは謝りたい!

「みなさんどうもこんにちは、魔王軍第6首シェルヴィ様のハースです。

 パパさんとの話し合いが終わり、自分の部屋に帰ろうかなと思った矢先、偶然にも悩んでいらっしゃる方を見つけたので、早速インタビューしていこうと思います。

 本日はどうぞよろしくお願いします」


「えっ、本当にやるの?」


 俺はただ無言で、ソファに座る彼女をじっと見つめる。


「はいはい、やればいいのね……こほん。

 うちには、ある悩みがあります」


「えーっと、まずはお名前からよろしいですか?」


「はぁ!?

 今せっかく乗ってあげようとしたのに!」


 この状況、ゲームマスターは間違いなく俺だ。


「全く、カメラなんて持ってないくせに、そんな動きして恥ずかしくないの?」


 彼女が指摘したのはおそらく、俺が左右の親指と人差し指を使って、カメラを構えている風な動きをしている事に対してだろう。

 でも、俺は真っ向からそれを無視する。


「えーっと、お名前からよろしいですか?」


「はいはい、もう分かったわよ。

 こうなったら、とことん付き合ってあげるわ。

 うちは大剣のディアンナ、魔王軍第1首よ」


「へぇ、ディアンナさんって言うんですね」


「……はぁ、知ってるくせに」


「それではいきなりですが、ディアンナさんのお悩みについて教えてください」


「うちの悩みは、シェルヴィ様にまだ謝れていない、というものよ」


「なるほど……って、え?

 それって、謝れば即解決じゃないですか?」


「もうっ!

 そんなことうちだって分かってるわよ!

 でも……」


「もしかしてディアンナさん……乙女?」


「そうよ、うちはか弱き乙女なの」


 確かに、ディアンナを初めて見た時、大剣を振りかざす程の力があるとは思わなかった。

 まぁ実際、軽々大剣を振りかざす化け物だったんだけど……。


「まぁまぁ、とりあえず魔王校に向かいましょう。

 このまま客間にいても、現状は何一つ変わりません」


「そ、そうね」


 俺とディアンナは、シェルヴィ様のいる魔王校へと向かった。


「おやおや、これはこれはシェルヴィ様の付き人の方ではありませんか。

 しかも、お隣におられるのは確か、魔王軍第1首、大剣のディアンナ……。

 これは何か、大事な用だとお見受けしますが」


 当然、魔王校には門番のぶた丸がいる。

 しかーし、ぶた丸は俺と同じでこの言葉にめっぽう弱い。

 


「そうなんです。

 実は、シェルヴィ様関連の急用なんです!」


「なっ!

 すぐに開けさせていただきます!」


 ぶーちゃんは、快く校門を開けてくれた。


「あら、あなた力持ちなのね」


「いえいえ、まだまだでございます。

 それより、早くシェルヴィ様の元へ向かってくだされ」


「それもそうね」


 そしてついに、俺とディアンナはシェルヴィ様がいるであろう2-1の教室、の前のT字廊下へ到着した。


「あのー、ディアンナさん。

 ここまだ教室じゃないですよ?」


「へ、へぇ、これはこれは立派な教室だこと……」


 壁に身体を寄せ、頭だけを出し、教室の様子を伺うディアンナ。

 その脚はプルプルと震えている。


「はぁ、仕方ないですね。

 俺が先に行って、シェルヴィ様を呼んできます」


「あぁ、かたじけないな」


 何やら変なキャラに執着している俺だが、困っている人を見過ごすような人にはなりたくない。

 俺は教室の窓から中を覗いた。

 すると……。


「あっ、イケメンさんだ!」


「えっ、本当だ!」


「ねぇねぇ、誰に会いに来たのかな」


「そんなのシェルヴィ様に決まってるでしょ」


 いつも通り女の子たちに囲まれてしまった。


「なっ……!

 この騒ぎよう、間違いなくハースが来てるのだ」


「えぇっ!?

 シェルヴィちゃん分かるの?」


「うむ。

 何となくではあるが、確信してるのだ」


「それ、なんか矛盾してない……?」


 シェルヴィ様を探そうにも、目の前にあるのは壁。

 だから俺は、大人しく待つことにした。

 そして待つこと数分……。


「ハース、どうして学校にいるのだ」


「シェ、シェルヴィ様!」


 女の子たちをかき分け、シェルヴィ様が窓の前へとやってきた。


 当たり前だが、シェルヴィ様は今俺に対して怒っている。

 もしここで変に時間をかければ、大事な1戦を控えるディアンナに飛び火しかねない。

 ならば、俺が取る選択肢は1つ。


「ちょっとお借りします!」


「な、何をするのだ!」


 そう。

 無理やり連れていく、だ。

 俺は窓からシェルヴィ様を抱っこすると、エレベーター前でそわそわしているディアンナの前で下ろした。


「あとは、おふたりでどうぞ」


 俺は無意識に認識阻害魔法を自分にかけ、2-2の教室に身を潜めた。

 ここからなら、2人の様子がよく見える。


「あ、あの……!」


「ん? 初めて見る顔なのだ」


 そういえばそうか。

 シェルヴィ様が見たのはあの竜であって、放った本人ディアンナじゃないのか。

 これはまず、説明から入らないといけないな。


「う、うちは、魔王軍幹部第1首、大剣のディアンナと申します」


「ど、どうもはじめましてなのだ」


 気まずい空気が2人を包み込む。

 しかし、そんな空気を一蹴するかのごとくディアンナが切り出す。


「せ、先日は、うちの放った竜のせいでとても怖い思いをさせてしまい、大変申し訳ございませんでした」


 ディアンナは前で手を重ね、深々と頭を下げた。


「……竜?

 竜……竜……竜……あっ、あの竜か!」


「はい……」


 おそらくディアンナは、自分が叩かれたり、怒鳴られたりすると思っているのだろう。

 だが、それは大きな間違いだ。


 俺のよく知るシェルヴィ様、俺の大好きなシェルヴィ様、それは……。


「あの竜……もう1回見たいのだ!」


「……え?」


 予想外も予想外な返答に、ディアンナは思わず顔を上げた。


「我もいつか、あの大きな竜を操れるような、立派な大人になりたいのだ!」


「で、でも、うちは身勝手な行動でシェルヴィ様に怖い思いを……」


「ふっふっふ、我を甘く見てもらっては困るのだ。

 我は魔王の子シェルヴィ、その程度全く恐れるに足らないのだ!」


 俺のよく知るシェルヴィ様、俺の大好きなシェルヴィ様、それは……常に元気で前向きで、誰よりも好奇心旺盛で、本当に自分のことしか考えられない、とても世話の焼けるお嬢様です。

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