第4話 クロとシロ

 2人の反応を見る限り、クロと呼ばれていた彼女は人付き合いが上手。

 逆に、シロと呼ばれていた彼女はシャイといった感じか。


 それはそうと、あの床から出てくる魔法のような動きについて1つ思うところがある。

 なぜかは知らない。

 ただ、俺にも出来る気がする。


 改めて言うが、理由は分からない。

 でも、不思議と出来る気がするのだ。


 考えられるのは、神様が普通を愛する俺に普通じゃないステータス的なものを与え、普通じゃない生き方をさせようとしているとか。

 そう仮定した場合、納得がいく。


 それで、ここがそのいじわるの舞台となった異世界ってとこか。

 ほらっ、これで筋が通った。


 はぁ、俺の愛する普通は一体どこへ行ってしまったんだろう。

 早く君に会いたいよ。


 俺が普通への愛を心の中で叫んでいると、部屋の準備を終えたクロさんとシロさんが再び魔法陣から戻ってきた。


「ただいまにゃ!」


「ただいまです……にゃ」


 サラサラな2人の前髪が左右に揺れる。


 おいおい、仕事早すぎだろ!

 いや、当たり前か。


 相手は魔王城で雇われているメイド。

 つまり、最強幹部とかそういう類の実力者なのが必然。


 こんな重要なことを見落とすところだったなんて、危ない危ない。


「部屋の準備完了にゃ!」


「完了しました……にゃ」


「ありがとう。

 じゃあ、お部屋までお連れしてちょうだい」


「お安い御用だにゃ!」


「お安い御用です……にゃ」


 俺は2人の後に続き、食堂らしき部屋を後にした。


 そしてこの時、俺は初めて自分の脚で地に立ったのだが、やはりよく知る脚の感覚とは少し異なっていた。


 時折感じるこの違和感はなんだ?


 部屋を出てすぐ、俺は黒い絨毯が一面に敷かれた廊下にお出迎えされた。


「……廊下とは一体……」


「にゃ?」


 流石はお金持ち。

 意味不明なほど広い廊下、等間隔に置かれた大きなシャンデリア。

 その存在感は異常と言える。


 でも、俺はそのシャンデリアより、壁に掛けられている1つの絵に目を奪われた。


 なんだこれ……。

 自然と絵に足が向く。

 

「この花は鮮やかなのに、こっちの花は落ち着きがある。

 この家は繊細なのに、空は大胆。

 素人の俺にも分かる。

 この絵を描いた人はきっと、人の心を惹き付ける才能を持っている」


 俺から出た言葉にしては、珍しく普通じゃない言葉だった。

 でも、それほどまでに素晴らしいと感じてしまったのだ。


「はぁ、何してるにゃ。

 早く部屋に行くにゃ」


「す、すみません。

 身体が勝手に動いてしまって……」


 俺は走って2人の元へと戻り、再び廊下を進んだ。


「……褒めすぎ……にゃ。

 ……恥ずかしい……にゃ」


 ところで、シロさんの様子がおかしいのはなぜだ?

 ずっと壁側を向いているし、ぶつぶつと何か呟いている。

 まぁ、何か考え事でもしているのだろう。


「なぁなぁ」


「はい」


「そういえば、お客様は何者なんだにゃ?

 あんなヒュースの顔を見たのは、1年ぶりくらいにゃ」


「そ、それ、私も気になってました……にゃ」


 あっ、そうだ。

 ママさんも言ってたよな。

 まずは自己紹介からって。


「そういえば、自己紹介がまだでしたね。

 俺はハース・シュベルト。

 本日より、シェルヴィ様の世話役を任された者です」


 俺は嘘偽りなく、全てを話した。

 でも、名前をもらえていなかったら危なかったと思う。

 パパさん、いや魔王様ありがとう。


「ほぅほぅ、にゃるほど……。

 そうだったのにゃ!

 どうりで凄まじい魔力量だと思ったにゃ、うんうん」


 どうりで?

 凄まじい魔力量?


 全く分からん。


 それより、シェルヴィの世話役って何をする役職なんだ?

 色々考え事をしていると、シロさんに声をかけられた。


「あ、あの……」


 シロさんから声をかけてくるなんて、一体何事だ……ごくりっ。


「シロさん、どうされたんですか?」


「シロさんっ……!」


 あれ?

 シロさんってこんなに顔赤かったっけ?

 確か、もっと透き通るように白かった気が……。


「さ、さっきの絵を描いたの、私なんだ……にゃ」


「えっ、本当ですか!」


「本当です……にゃ」


 何だ、そういう事だったのか。

 再び顔を隠し、壁際を向くシロさん。

 ただ、真っ赤な耳はこちらから丸見えである。


「ふっふっふ、シロは天才なんだにゃ!」


 どうしてクロさんが自慢げなんだ?


 まぁ何にせよ、これは友好関係を築くうえで大きな1歩となったに違いない。

 ラッキーパンチではあるが、シロさんの俺に対する好感度はきっと爆上がりだ。


「あの絵に出会えてよかったです」


「この話はもう、終わりにしましょう……にゃ……」


 耳が更に赤くなったシロさん。

 流石にちょっと褒めすぎたみたいだ。


「それがいいにゃ。

 ほれっ、ちょうど着いたにゃ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る