第21話 瞬きよりも速く

 イルドの腰部分が変形し、レールガンの形を取る。

「ドラグーンカノン!」

 光弾が発射され、アルララドの巨体の上に火花が散る。

 イルドの腕からビームが迸り、剣の形を取る。

「ドラグセイバー!」

 ビームの刃がブゥンと唸る。

 アルララドは体表を硬化させて、その斬撃を耐える。しかし状況はイルドが優勢だった。

「これが親父の情熱エナジー! 力がどんどん湧いてくる!」

 情熱の向くまま技を繰り出せる。次々新技が生まれる。絶対に負けない! イルドは確信していた。

 イルドは再び加速した。

 瞬きよりも速く。光速を超える。極限までの速度に達したイルドは一筋の光となった。

 アルララドも同様に加速して光となり、イルドと衝突を繰り返す。そのさまは一瞬のきらめきが交差しているようで、もはや常人にはとらえられないものだった。


「限りある命の者にこんな力が……」

 アルララドのおののく声に、義経が被せる。

「僕を忘れてもらっちゃ困るよ!」

 義経は畳み掛ける。

「さっきは好き放題言ってくれちゃって……よくわからなかったけど、僕の好きなものを壊されて黙っちゃいないよ! お前はここで倒す!」

「ちっぽけな地球人……お前は何者だ?」

「ただの……男の娘だ!」

「女装してここまで来ただと? 悪しき文明の象徴!」

「男の娘なめんなあああああ!」

 義経の叫びとともにイルドのパンチがアルララドにぶつけられる。

 硬化しても衝撃は伝わる。アルララドは頬にパンチを食らい、よろめいて口から宝石のつばを吐いた。

 瞬間的にアルララドは体勢を立て直し、イルドにキックを食らわせた。土手っ腹にキックを食らったイルドは、「ぐあっ!」と呻いて衛星まで飛ばされ、星の表面に衝突する。

 そこにゆらりとアルララドが寄ってきた。

「人類が……知的生命体が生き延びるのに、神の目線を考えないのは愚かなり!」

「そんなもの、どうでもいい! お前らに管理された生活なんてまっぴらだ!」

「お前はエゴで我々の愛を否定するのか!」

「そうだ! 俺のエゴだ! 俺がこれからもみんなと生きていきたいというエゴだ! それを貫くために、貴様を倒す!」

「なんと生き汚い……」


 衛星に衝突したダメージは深い。イルドの機体表面がぼろぼろと剥がれる。

 しかし死ぬことは許されない。

 まだ情熱エナジーが湧いている。勇気が、力が湧いてくる。ここで死ぬんじゃないと告げている。

 イルドは残った力を振り絞り、背部からジェット噴射してアルララドに踊りかかった。

「うおおおおおーっ!」

 イルドは大剣を振り下ろした。

 アルララドを袈裟懸けにする。

 アルララドもまた剣で応戦する。

 イルドの両脚が断ち切られる。

 イルドは痛みに耐え、歯を食いしばりながら剣に力を込める。硬度の高いアルララドは、すぐには両断できない。しかし力を込めていると、少しずつ割れていく。腕に過負荷がかかり、金属の関節が軋む悲鳴を上げる。

「あと少しだ……! ここで決める!」

 鬼神のようなイルドは、大剣を振り切り……。

「うおりゃああああっ!」

 アルララドを斬り裂いた。

 アルララドは半身になっても、体表から剥離した宝石を飛ばしてくる。

 その宝石の雨にイルドは晒され、残った両腕までもげてしまった。


   ・


 幾許かの静寂の後。

 戦いは終わった。

 真っ二つになったアルララドは今度こそ死んだらしく、真っ二つになって真空を流れていく。

 平等なる愛たちは宇宙空間に散り散りになっていった。彼らを統率する頭脳が敗れたことにより統合思念が崩れ、個々となって宇宙に放り出された。

 イルドは宇宙空間を漂っていた。四肢はもげ、全身がズタボロになっている。

「イルド、まだ生きてる……?」

 コクピットからかすれ気味の義経の声。

「ああ……何とかな……」

 イルドが答える。壮絶な戦いの後、彼らはこの空間から脱出できないまま何時間も過ごしていた。

 せっかく最大の敵を倒したのに、ここで終わりなのだろうか?

「義経……俺達はやったよな……」

「うん。十分すぎるほどやった」

「俺は……一体何になりたかったんだろうな……」

「それは君じゃないとわからない」

 でも、と義経。

「君はカッコよかったよ」

「そうか。それで十分だな」


 この白い深淵に身を委ね、滅びていくのもいいかもしれない。イルドはそう思った。

 もういいじゃないか。そんな言葉が脳裏に浮かぶ。俺は十分に頑張った。俺はここまで来れた、その事実だけで満足していい。

 いや……本当にそうか?

 イルドは自問自答する。

 本当は俺は、もっと生きたいんじゃないのか? この世のいろんなことを楽しみに生きたいんじゃないのか?


「死にたく……ないな」

 イルドはぽつりと言う。

 その言葉は虚空に吸い込まれた。


 傷つき、真空に浮遊するイルドの前に、巨大な船影のようなものが現れる。

 ぷぉぉん、と汽笛の音が水生恐竜の鳴き声のように響き渡った。

 宇宙船だ。その姿は大型の潜水艦にも似ていた。

 宇宙船はイルドの方に近づいてくる。

「何者だ……?」

 船影はライトでイルドを照らした。そしてアームを使い、イルドを掴んで中に引き寄せていく。

「お前は、誰だ……」

 遠くなっていく意識の中で、イルドは船に収容されるのを感じた。寒い真空から温かい室内に肌の感触が移っていった。

 そして、何もかもが暗転する。

 イルドの記憶はぷつりと途絶えた。

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