第17話 許されざるいのち

 親子の対面。それは両者が睨み合い数々の因縁が交わる場であり、ましてドラゴンカーセックスと揶揄することも憚られるものだった。 

「恒星が死ぬ時、その星を中心に大規模な爆発……ガンマ線バーストが起きる。そして恒星はブラックホールと化し、その星系は崩壊する。平等なる愛は、滅びる星系から脱出し、新天地に命の種を蒔く存在だ。時空を超え、様々な宇宙に侵出している。我々が時の涯で食い止めていなければ、太陽系により多数の敵が侵入してきただろう」

 プロメテウスは滔々と説明する。イルドは煮えたぎる気持ちを抑えながら、じっと聞いている。

「イルド……本当に大きくなって……」

 セレナと呼ばれた車が、涙に目を瞬かせるようにフロントライトを点滅させる。イルドはそれに言葉を返さなかった。

 プロメテウスは続ける。

「しかし、平等なる愛は自分たちにそぐわないものを良しとしない。別宇宙を、かつて彼らがいた宇宙と同じものにするために破壊活動を行う。そんなことを許してはいけない。宇宙パトロールが平等なる愛の根絶に乗り出した。私もそれに入っていた。だが、故あって私も彼らから追われる身になってしまった……」

 セレナは申し訳なさそうに、クラクションを短く鳴らした。

 そこまで言って、プロメテウスはイルドに歩み寄った。


 プロメテウスはがしっとイルドの頭を掴み、自分の額をくっつけた。

「私の記憶をお前に流し込む! お前が生まれた理由を、我々が何をしていたかをお前に伝えよう……」

 イルドはプロメテウスの急な行動に目を丸くしたものの、すぐ流れ込んでくる記憶の奔流に身を任せた。イルドのコクピットに乗っている義経もまた、その夢のような体験をしていた。

 プロメテウスの体験した記憶が走馬灯のように脳内を巡る。彼が経験したこととそっくり同じ記憶を植え付けられた。

 その異様な内容に、イルドも義経もおののいたのだった。


   ・


 若き日の過ち、というのは誰にでもあるだろう。

 酒の勢いで女を抱いてしまった、正しいと思い込んだことが間違ったことだった。視野狭窄のなせるわざは何通りにも及ぶ。

 その点で言えば、確かに若きプロメテウスは過ちを犯しただろう。

 ただ、それにより生まれてしまうものもある。生まれたものに罪はない。プロメテウスはその命を守るために日夜戦っている。それは曲がりなりにも男と女の関係を持ってしまった、彼なりのけじめであろう。

 その物語の始まりから、記憶は始まった。


「いってらっしゃい、プロちゃん」

「あぁ、今日も行ってくるよ」

 ねぐらから出る時、フィアンセの竜ミストが送ってくれて、プロメテウスは彼女に頬を寄せ、行ってきますの愛情表現をした。

 ミストは鱗に艶があり、整った爪をしている。竜族の中では美人の部類だ。

 プロメテウスは竜の星で生活していた。そして宇宙パトロールに入り、星に設置されたゲートから様々な星に飛び、悪者と戦っていた。

「平和を守るために尽力していれば父さん……竜王様も私たちの結婚を認めてくれるはずだ。もうすぐ私たちは結婚できる」

「そうね……結婚したら子供が三匹はほしいわ。男の子二人と、女の子一人。泉のそばにある洞窟で暮らしましょう。ゆっくり仕事の疲れを癒せるような……」

「ああ。いずれ必ずそうする。君は安心して待っててくれ」

 そう言ってプロメテウスは今日も仕事に向かった。宇宙船が彼の星に停泊している。それに乗って、更に宇宙空間に建造されたゲートを潜るのだ。

 彼が竜の星にいたのは、その日の朝が最後になった。


 その日。宇宙海賊がオークションに出て、盗品を出品していた。

 闇の世界では、違法に手に入れたものも競りにかけられる。闇オークションの場所はメタンガスに覆われた惑星だ。分厚い大気の下に隠れ、オークション用の宇宙船は多くの闇事業者を受け入れていた。姿形もさまざまな宇宙人たちが席にひしめき合っていた。

「さぁ、こちらは世にも珍しい地球産の車! しかも日本製! 感度良好、品質保証の一品です!」

 司会が買った買ったと入札者たちを煽る。オークションの値段を表示するパネルの数字がみるみる上がっていく。

 入札者の間で目での駆け引きが行われる。前の入札者の倍出す、五千宇宙ドル追加する、などなど。一円でも多く出したほうが勝つ。オークション会場は殺気に包まれていた。

 そしてオークションの閉会時間が近づく。

「なんと! 日本製の車、今回は五億宇宙ドルでの落札となりました!」

 目の飛び出そうな値段だが、相場もだいたいこのくらいだった。

 入札者に商品が送られる直前。


 天井を炎がぶち抜いて、次いで一匹の竜が会場に飛び込んできた。

 驚く面々に、竜は宣言する。

「私は宇宙パトロールのプロメテウスだ! 違法オークションは押収する!」

 プロメテウスの胸には宇宙パトロールのバッジが輝いていた。

 闇事業者たちは押し合いへし合い逃げ惑う。しかし宇宙船の出口は他の隊員がすでに回り込んでいた。

「全員、お縄にかかれ!」

 プロメテウスが言うと、闇事業者たちは観念して身を縮こまらせる。


 プロメテウスの目に出品されていた車が見えた。まだ犯罪者全員を連行するのに時間がある。プロメテウスは宇宙では珍しい車をしげしげと眺めた。

「車……車というのか。我々竜は自分の羽で飛べるが、こういうものを使わないと移動できない種族もいるのか……。その種族はなんと小さくて、のろまなのだろう。短命に違いない」

 しかしながらこの時すでに、プロメテウスは車に惹かれるものを感じていた。丸い女性的なボディ。抱くのにちょうどいい大きさ。無機質な顔。

 何か、ときめきのようなものを感じていたと思う。

 プロメテウスは気づかなかった。この時、平等なる愛が宇宙船の近くまで来ていたことを。


 空から降ってくるように、平等なる愛の一団がオークションの宇宙船に侵入してきた。それは鉱物生命体のランダムな時空への侵略であった。宇宙船の出入り口から内部に入ってきて、外にいた宇宙パトロール隊員たちも突然のことに対処しきれなかった。

 オークション会場に入ってきた鉱物生命体がプロメテウスの脇を通り過ぎ、出品されていた車に取り憑いた。

 車の表面が光り、命を与えられる。

 車は目覚め、眼光を飛ばすようにフロントライトを光らせた。

「ワ、タ、シ、ノ、コ、エ、キ、コ、エ、ル……?」

 たどたどしく話す車に、プロメテウスは驚愕した。

「無機物に命が……?」

「ワ、タ、シ、セ、レ、ナ……」

「セレナ、それが君の名前か!」

 血相を変えた宇宙パトロール隊員がプロメテウスたちのいる船に入ってくる。

 そして、車を連行するように告げた。


 平等なる愛の影響で生まれたものを生かしておくわけにはいかない。

 宇宙パトロール本部の下した判断は、処分。隊員たちが本部に戻るやいなや、即刻車を処分せよと通達があった。

 プロメテウスは宇宙パトロールの宇宙船内に閉じ込められたセレナを想う。

 もうすぐセレナはプレスされ、鉄くずになってしまうだろう。

 そう思うと、めらめらと燃える炎が胸中に渦巻いた。

「それは……嫌だ!」

 プロメテウスはこの時、宇宙パトロールを裏切ろうと決意した。

 宇宙船の、セレナが監禁されている場所にプロメテウスは急いだ。

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