憧れの白銀の翼~シルバー・アヴィエイター~

大黒天半太

憧れの翼

 少年の日の憧れは、何年経っても変わらず心の奥深いところに生きている。


 その白銀の機体は、寒風を裂いて舞い上がった。


 滑走路に並行するフェンス越しの道路を、キラリと光る飛行体を追って走ったのは、何歳の頃だったか。

 発進の加速前と、帰還時の減速中は、思ったよりゆっくりと見えた。走れば追いつくかも、と子供心に思ったものだ。


 ふわりと舞い上がるかなり前ですら、実際は追いつけない程の速度であり、着陸して制動状態になっても、静止までは時間がかかるタイムラグがある


 巨大な機体を遠くから眺める視点では、その巨体に応じたゆっくりさには見えるが、実際はその翼と胴体が浮かぶに相応しい揚力を生み出していることを考えれば、凄まじい推力速度だ。


 その巨大なトリの飛翔/トリの降臨の姿を見る時、何よりその強さと美しさを感じていた。


 あんな巨大で美しいトリになれたら……そんな突拍子もない子供の思いが募ると、私のような、突拍子もない人間が出来上がる。


 能力に見合わない夢を抱き、無謀と言われながら挑戦を続ける、見果てぬ夢の囚われ人インポッシブルドリーマー


 飛行士アビエーターの試験には何度も挑んだが、実技テストでは遂に最後まで合格点に達しなかった。


 これが逆であれば、知識の詰め込みでいつかは筆記試験を突破することもあるのだろうが、いくら知識と経験を積み重ねても、持ち前の操縦センスだけは、如何ともしようがなかったのだ。


 憧れへの道は、断たれた。乗員乗客になることはあっても、自ら操縦して大空を駆けることはない……。


 巨大で白銀の機体は、遥か高い空を飛んでいる。離れているからゆっくりと見えるが、実際は凄まじい……凄まじい……凄まじい?


 白銀のゆっくりとした姿は、あれよあれよと言う間に、高度を下げ、高度が下がると同時に実際の速度が実感できるようになる。つまり、想像もつかない速度での接近だ。向こうはこちらを認識もしていないだろうが、意識が、次の一瞬には、視界が白銀の巨体でいっぱいになる。


 宇宙まで一気に上昇できる選ばれた白銀の機体は、こんな所で墜落したとしても、僅かな補修でまた飛べるようになると聞いた。乗員や内部の精密機器は、そうもいかないだろうが、それでも即死や修理不能な破壊は免れると言う。

 結論として、墜落現場の衝撃波をダメージとして受けるのは、我々のような地上要員であり、ほぼ直撃されるだろう私だ。


 あれを操縦する側に、成りたかったんだがなぁ。


 痛みを感じるより速く、脳は身体が吹き飛ばされて白銀の機体の上を通り過ぎるのを感知した。


 そのまま私の意識は、ブラックアウトした。




「またノイズです」

 副操縦士は、機長である主操縦士に報告する。

「新品の生体計算機バイオコムはこんなもんだ。俺達と一緒で、まだ機体に馴れてないのさ」

 初めての機長だってのに、ついてない、とセルジュは思った。

 フルリペアされたとはいえ、墜落現場に死者を出し、操縦士達、乗組員もまだ大半が入院中で、やっと機長になる順番が巡って来たんだから、この機会チャンスはモノにしないといけない。


「頼むぜ、ツィオン。友達のよしみで俺に力を貸せよ」

 生体計算機バイオコムに納まった脳に語りかける。

 偶然にも、この機体の墜落事故で唯一の死者は、操縦士候補生で、セルジュには面識もあった。

 運悪く、操縦士の試験には落ちてしまったが、彼は、誰よりも空を飛びたがっていたから。

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憧れの白銀の翼~シルバー・アヴィエイター~ 大黒天半太 @count_otacken

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