【BL】トリのせいで異世界転生先がおかしくなった

椎葉たき

第1話 死んだらしい

 何故か、真っ白な空間に居た。眩しい程の白一色。光が強すぎるせいか、自分の姿すらまともに見えない。

 ――夢か。

 朝起きて歯を磨く途中だった気がするのだけれど、どうやらを見ただけらしい。


「夢じゃないよ!」

「のあっ!?」

 唐突に元気な少年の声が響き、びっくり仰天足がもつれてひっくり返った。昭和ギャグ漫画のコケっぷり――見えないけど。

「そんな驚く?」

 いや、驚く。姿も気配もないのに、声だけ大音量で聞こえたら誰でも驚く。


「ごめんて」

 ん? 喋ってないのに、会話している気がする。

「してるよー。君の思っていることは全てお見通しさ。なんたってボクは、世界の監理者の末端……わかりやすくいうと、下級神族ね」

 マジか。

 下級神族って、北欧神話的な?

 起こっちゃうぞ、神々の黄昏ラグナロク! そして世界の終末――

「滅ばないよ! そのためにボクらが管理してるんだから」

 なるほど。


 というか、この現象知ってるぞ。

「異世界転生あるあるだね!」

 テンション高い声に先に言われた。

「やっば、夢だな」

「んー。白浜斗理しらはまとうりくん。享年、二六歳。雪の降る早朝、歯を磨いている途中で迷走神経反射失神を起こし、倒れたときに頭を洗面台に思いっきりぶつけて脳卒中――脳出血を起こして死亡。さっき死んだばかりなんで、一人暮らしの君の遺体はまだ誰にも見つかってないよ。若いのに孤独死!」

 いらん報告、どうもありがとう。

「不摂生してるからこうなるんだよ。自律神経の乱れで起こった不慮の事故。わかる?」


 見えない下級神族様にめっちゃ責められて怒られた。最近、朝方までスマホをいじってしまうスマホ中毒を放ったらかしにしてしまったツケの末路。

 職場の仲間、迷惑掛けてごめん。無断欠勤に気づいてアパートの部屋を訪ねてきたら俺の遺体とご対面なんてトラウマ植え付けて、本当にごめんなさい。

 そして、両親。何不自由なく育ててくれ社会人になった俺を快く送り出してくれたのに、先に逝ってしまい申し訳ない。

「本当だよ」

 プリプリ怒る少年の鋭利な声がブッスリと胸に刺さり、「んぐっ」と言葉を詰まらせる。俺死んでるんだけど。

 後から死んだことを実感し、今更ながら後悔の念と絶望感を覚える。同時に、もう仕事に行かなくていいし、日に日に上がる物価になかなか上がらない給料、ジリ貧生活、不安定な情勢なんかによる将来への不安から解放された安心感もあった。申し訳ないが、安心感もあるのは事実。


「死なせないよ!」

 え? 生き返る?

「そんなに甘いわけないじゃん。ってか、死んでるっての。脳が駄目になってるから無理」

 ですよねぇ。

「君は異世界転生行きだ。本当は、斗理くんは今死ぬ運命じゃなかったんだ。全く、不摂生してるから!」

 余計な仕事させて、すみません。

 出来ることなら生まれ変わりたくないのだけれど。だって、異世界転生って苦労するフラグじゃん。寧ろ、現代日本で生きるより大変な目にあうじゃん。

 なるほど、これは罰……。


「あれ? 斗理くん、異世界転生にあこがれてなかった?」

 いや、まあ……。

 あこがれはあった。異世界転生して最強! 俺TUEEE! とか。でもそれはフィクション、例え俺TUEEE! であっても文字通り死ぬほど苦労するのが物語の常。画面や本の中だからあこがれなのであって、現実としてはノーセンキュー。

「拒否しても無断だよ。君のせいなんだからね」

 死んだ責任を問われると何も言えねぇ……。

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