カッパの里14
────昔々、とある田舎の村外れに、誰もが振り向く程の絶世の美女がおりました。
その絶世の美女は体の弱い両親と慎ましくも暮らしておりました。
体の弱い両親を食べさせる為に、女ながらに野良仕事に出て、立派に両親を養っていたのです。
村中からも評判の働きぶりで、村娘の事を悪く言う物は一人としていませんでした。
イタズラばかりして村人を困らせ、疎まれていたカッパ達にも分け隔てなく接し、時にはキュウリの贈り物なども行っていたおかげで、カッパ達も村娘には手出しをしたりはしませんでした。
村の真ん中にカッパ達も暮らす大きな大きな川が流れていまして、そこにはここら一帯を支配している龍神と呼ばれている神様がおりました。
龍神は村人達に大層な貢ぎ物を要求しており、貢ぎ物を用意できないのならば、この村を川の底に沈めると脅しました。
村人達は村の家屋の数で貢ぎ物の総量を割って払うことにしましたが、貧しい暮らしをしていた村娘はどうしても払うことができなかったのです。
村娘だけが貢ぎ物を用意できない事を代表者が龍神に伝えに行くと、龍神はニヤリと笑い、『それならば絶世に美しく、手入らずの体を捧げよ』と言いました。
代表者は二つ返事で村娘を捧げる事を誓いましたが、村娘は体の弱い両親を残しては行けないと、龍神に貢ぎ物を用意するまでの猶予をお願いしたのです。
龍神は村娘の願い入れを聞き入れ、十日だけ待ってやろうと言いましたが、村娘が貢ぎ物を用意出来ない事は存分に理解していました。
どうしても村娘を手に入れたい龍神は、村の代表者を使い、村娘を村八分にしろと命を下したのです。
村の代表者も村娘の家が貢ぎ物を用意出来ない事は理解していました。
村の代表者は心を痛めながらも村娘に嫌がらせをするように村の者たちに命令をしたのです。
その日から村娘の家の壁には馬糞が投げつけられたり、肥溜めから持ち出されたたい肥が撒き散らされたり、誰も口を聞いてくれなかったりと、嫌がらせの日々が始まったのです。
それでと村娘は気丈に振る舞い、普段通りの生活を送りながらも、どうにか貢ぎ物を工面する方法を考えていました。
村八分が始まって五日ほど経ったある日、村娘が家に帰ると、両親が亡き者にされていました。
村娘は言葉を失い、一人涙を流しました。
それでも村娘は村人達を恨んだりはしませんでした。悪いのは貢ぎ物を用意できなかった自分のせいだと自らをせめました。
村娘は辛い気持ちを耐え、一人で両親を弔ったのです。
その晩の事でした。
村娘は一人、寝入ることも出来ずに布団に横になっていると、ガタガタと戸が揺れ、何事かとそちらを見ると、村の若い男達が家の中に入ってきていたのです。
村娘は村の男達に手籠めにされてしまいました。
村娘は酷く心を痛め、家に引きこもるようになってしまいました。
それからということ、味をしめた男達は毎晩毎晩やってきては村娘を手籠めにし続けました。
それでも村娘は男達の事も恨む事はありませんでした。
悪いのは自分のせいだとせめたのです。
龍神との約束の日、村娘は決意を決めて龍神の元へ向かいました。
村娘はこの村を愛していました。
この村で産まれ、育まれ、暮らしてきた日々を愛していたのです。
自らの犠牲で、この村が助かるのならと村娘は身を差し出すと龍神に告げました。
すると、龍神はその申し出を鼻で笑ったのです。
『我が言った条件忘れてはいまいな?手入らずの体を捧げよ。そう伝えたはずだ』と
村娘は食い下がりましたが、そのせいで龍神の怒りを買うことになってしまったのです。
『今晩、この村を川の底に沈める』
そう告げると龍神は川底に身を沈め、それ以降村娘の前に姿を現す事はありませんでした。
絶望した村娘は粗末なイカダを作り、それを川に浮かべると、その上で横になりました。
若しや、こうする事で龍神が怒りを鎮めてくれるやもしれない。そう思っての振る舞いでしたが、事実はそう甘いものではありませんでした。
夜になると、濁流が村を襲い、村娘はイカダごと川に飲まれて命を落としてしまったのです。
龍神の怒りはかなりのもので、洪水は三日三晩続きました。
しかし、龍神と村娘のやり取りを見聞きしていたカッパが村人達に避難を呼び掛けた事で、村娘以外の犠牲はありませんでした。
後にたまたま通りかかった大天狗が龍神と闘い、見事勝利を納めると、龍神はこの地から去って行きました。
カッパも村人も大天狗に感謝を告げ、力を合わせて村を復興させました。
今回の事で心を入れ替えたカッパ達は、村の仕事を手伝うようになったそうで、村娘が仕えていた野良仕事には特に力を入れたそうな────
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