カッパの里12
「うぅ、身体中バキバキだ」
「大丈夫ですか……?」
麗が心配そうな顔つきで、手を差し伸べようとしたそのタイミングで、二人の仲を引き裂くようにどこかから白い長方形の箱が投げ込まれた。
「それ、貼っとけ」
無愛想にそう言って立ち去ろうとしたのは、頭にねじり鉢巻をしたカッパであった。
カッパだということを隠そうともせず、緑色の肌、傷だらけの甲羅を露出させている。
黄色いクチバシを器用にへの字に曲げると、そそくさと立ち去っていった。
投げられた箱を麗は持ち上げ、ポツリとつぶやく。
「湿布……みたいです」
「なるほどな。悪いけど貼って貰えるか?」
修は自らドテラをゆっくりとした所作で脱ぐと、背中を麗の方へ向けた。
麗は一瞬戸惑ったような仕草を見せるも、覚悟を決めたと言わんばかりに一つ頷くと、箱の封を解いた。
「まかせて下さい!」
麗は湿布を一枚取り出し、保護フィルムを取り外すと、勢い良く修の背中にたたきつけた。
ビタンッ!という音と共に湿布は修の背中に貼り付き、それと同時に、修は小さなうめき声を漏らした。
「うぅ……」
「どうされたんですか!?」
「イチチチチ」
修はしばらくそのままの姿勢で固まっていたが、少ししてからゆっくりと麗の方へ顔を向けた。
「慣れない作業をさせられてたから身体中バキバキなんだよ。ちょっとした刺激でも激痛なんだ。だから優しく貼っえもらえると助かる」
「わ、わかりました!任せて下さい!」
麗はそう返事を返し、箱からもう一枚湿布を取り出し、先ほどと同じようにフィルムを剥がし、ゆっくりと修の背中に貼った。
「ふぃー」
するとまた修がおかしな声をあげ身震いをした。
「また私、なにかそそうをしてしまいましたか!?」
「いや、違うんだ。ひやっとした感触がちょっと苦手でさ、さっきは痛みが強くてかんじなかったんだけどさ。だから、続けてどんどん貼ってくれ」
「そ、そうなんですね。わかりました!任せて下さい!」
麗は修の背中を覆い尽くす勢いで次から次へと湿布を貼り尽くす。
「ちょっと麗さん。凄い背中がスースーするんだけど、今どんな状況?!」
「初めてだったので────ちょっと不格好かもしれませんが、隙間なく貼ることができましたっ!少し重なってしまいましたけど」
「途中からおかしいとは思っていたけどさ、さすがにそれはやりすぎだよ。まあもう済んでしまったことは仕方がないけど、余ってる湿布貰える?」
そう言いながら修は麗の方へ振り向く。少し恥ずかしそうに湿布の箱で顔を隠す麗。
逆さまにしてシャカシャカと箱を振るが、中から何かが出てくる事はない。
「全部使ってしまいました」
「おいおい。まだ腕とか、脚とか貼りたい所たくさんあったのに」
「本当にすいません……」
麗は申し訳なさそうに、深く深く頭を下げた。
修も麗のそんな姿を見て何も言えなくなってしまったようで、まあ寝れば治るよと強がりを言ってポリポリと頭を掻いた。
「いちゃつきやがってからに、人の家って事を忘れんなー。遠慮ってもんがあっぺ?」
どこからともなく現れたのは、敵対的なカッパ?であった。
なにかに呆れている樣子であったが、修にはなぜカッパ?が呆れているのかがわからなかった。
「なんだよ?こちとらお前らにこき使われたせいで、身体中バッキバキなんだよ」
「別に頼んだわけじゃないっちゃね。んだらさっさと出ていげ!」
「おめは素直じゃねえな」
そう言いながらを敵対的なカッパ?の肩に手を置いたのは、優しいカッパ?であった。
「素直じゃないのは、お互い様ってことで、勘弁してけさい」
優しいカッパは修の方へ向きペコペコとしながら頭を下げた。
何を言っているのかよく分からなかったが、修は優しいカッパ?には借りもあったからと、ああと返事を返した。
すると優しいカッパ?は敵対的なカッパにその場に座るように促し、自らもその場に腰を下ろした。
「野良仕事さする前に、約束したっちゃ?話しさしに来たんだ」
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