冒険者と自称料理人

第2話 中堅冒険者、フィルフリッツ

「フィルせんぱーい、またお願いしますね!」

「ああ、手が空いてたらまたな」

「「「 ありがとうございました! 」」」

「依頼だから気にすんな。それじゃあな」


 冒険者ギルド前で挨拶を受けて解散、オレはこのあとギルドに報告書の提出だ。

 今の連中は今日D級の冒険者になって初めてダンジョンに潜れるようになった連中だ。そういう連中にダンジョン内での注意事項やマナーなんかを指導する仕事をギルドから受けていたので、報告書が必要なのである。


「ラグナ」

「わふ!」


 ギルド内に獣魔を入れてはいけないわけじゃないが、苦手なやつもいるからいつも外で待たせている。他の獣魔もいて一か所に集まっているので、ラグナはそこに向かって歩いていった。

 ギルド内に入り、受付へ向かう。まだ浅い時間だからか比較的空いているな。


「おかえりなさいフィルフリッツさん、おつかれさまです」

「ああ、引率は完了だ。報告書作成いいか?」

「準備しますね……どうでしたか彼らは」


 冒険者の中には読み書きが苦手な人間が多い。だがそれ以上に文字は書けるが恐ろしく汚い連中が多い。そんな連中の報告書は読めるもんじゃないし、書き直させると紙が何枚あっても足りなくなる。自然と口頭で冒険者が説明をし、ギルドの人間がそれを聞いて報告書を作成する流れになったのだ。時間こそかかるが、これが確実である。


「実力自体は悪くはないが、パーティとしてはどうかな。どうにも前衛二人の連携が取れていない」

「ありゃりゃ。その辺の指導は……」

「一応しておいたがどこまで聞いてるかだな。冒険者ってのはどうしても血気盛んな連中が多いからなぁ」

「いやいやいや、B級の指導を無視するような新人はいませんよ!」

「そうかぁ?」

「もちろんですよ。それにその辺の連携が取れないともっと難易度の高いダンジョンでは通用しないですからね」

「まあ今回は卵ダンジョンだったし下層にも行ってないから難易度は低かったが」


 卵ダンジョンとは初心者向けのダンジョンの一つだ。冒険者として新人のE級を超えてD級になることで入場の許可がされるダンジョンである。

 チキチコッコという鶏の魔物が多く出てきて、階層を降りると小麦をドロップする走り小麦や、巨豚なんかも出てくる。とはいえチキチコッコはどの階層にもいてどの階層でも卵が手に入るので卵のダンジョンと呼ばれている。

 今回はチキチコッコと走り小麦が出る3層まで潜らせた。そこが一番チキチコッコが多く出てきて、巨豚が出ないラインだからだ。


「具体的に問題があったんですか?」

「目の前の魔物しか見えてないのがな」


 ダンジョンっていうのは非常に厄介な場所だ。突然背後に魔物が発生することが多々ある。戦闘中でも周りに気を配り、魔物を仲間に任せ自分は戦わないといった選択をしたほうがパーティのためになることが多々ある。

 その辺の話をしたのだが……いざ魔物との戦闘が始まるとどうしても前衛の二人は目の前の魔物の集中してしまって後衛が攻撃にさらされた。

 今回はオレとラグナがいたしそもそも襲ってくるのがチキチコッコだったから命の危険があったわけではないが、まあ見ていて危なっかしいことこの上なかった。


「新人あるあるじゃないですか。そのうち視野は広くなりますよ」

「だといいんだけどな」


 今まで満足に戦闘をしてなかったのか、後衛の女の子も問題だ。敵からの攻撃にさらされたときに慌てすぎだ。

 あの騒ぎようではダンジョンの種類によっては更に危険を呼び込んでしまう。


「いきなり冷静に対処だなんて求めちゃいないが、それしにても魔物に慣れてなさすぎだ」

「仕方ないですよ。今までは街中での雑用ばかりだったんですから」

「それにしても、大ネズミくらい倒してるだろ」

「あはははは」


 あれは新人の登竜門だからな。


「敵との遭遇と他の冒険者との戦闘の順番は守れていた。ボスがでなかったから現物は見せてられてないが、マナーは教えておいた」

「助かります」

「ドロップの種類も教えてはおいたがどこまで覚えているかだな」

「どうしても卵に比重が行ってしまいますからね。専用のケースもありますし」


 卵のダンジョンだから一番手に入るドロップ品は卵だ。魔物の卵だから普通の卵より頑丈だが、結局卵なので割れる危険がある。だからダンジョンに入る前に卵ケースを借りるなり買ってから入るのが常識だ。

 24個×5段の卵ケースだからそれなりにかさばる。だから他のドロップ品をないがしろにする冒険者も多いのだ。鶏肉よりも卵の方が安いが、持てる量と手に入るペースを考えると卵を集めるだけの方が効率いいのも事実。


「チキチコッコのドロップは魔石のかけらが一番高いですけどね」

「レアドロップだからな。今回はドロップしなかったから現物を見せておいた」

「準備万端ですね。ですけど出ませんでしたか。運が悪かったですね」

「まったくだ」


 魔石のかけらは魔道具の燃料に使われる消耗品だ。魔道具は高価なものが多いので持ち主は貴族や一部の裕福な商人などだ。そんな連中が購買対象だからそれなりに高値で売れるのである。

 まああくまでもチキチコッコのドロップ品の中ではだが。

 世間話を交えつつどれだけの時間ダンジョンに入りどの程度魔物を倒したか、ドロップはどれだけ拾っていたかなどを報告。それとオレがどの程度力を貸したとか何を重点的に教えたかの話をした。



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