うちの料理人は色々おかしい

てぃる

第1話 レストラン『ラグナシェリー』へようこそ!

「こらラグナ、街中でそんなに走るな」

『ガフ!』


 いくら小型種とはいえ上位の魔物、プラチナウルフだ。落ち着かない様子を見せると周りを不安にさせる。

 ダンジョンから帰るときほどこいつのテンションの上がるときはない。まあダンジョン内では活躍していたからしょうがない。

 早く帰ってメシが食いたいのだろうが……上位の魔物の威厳が消える瞬間でもある。

 獣魔契約をしているし、もともと完全屈服をさせているし頭のいい魔物なので言うことを聞いてくれるのが救いだが……涎が抑えられていない。


「はあ、まったく」

『ワフ!』


 魔物との戦闘においては良い相棒なのだが、まったく。


「今日も繁盛してんなぁ」


 家に……店に近づくにつれて、喧騒が聞こえてくる。おーおー、今日も並んでるなぁ。


「お、帰って来たか。早くホール回せよ」

「うるせえ、黙って並んでろ」


 オレを店員扱いするんじゃねえ。まあ手伝いはするが。

 常連やら知り合いからの声を無視して裏手に周る。


「あ、おかえりー」

「ああ」

「どうだった?」

「ご要望通り卵と鶏肉、それと豚肉と小麦だな。魔石のかけらも獲ってきたぞ」

「助かるわー。身ぎれいにしたらホールよろ」

「へいへい、母さんは?」

「追加の野菜の受け取り」

「うい」


 収納袋を手渡して言われるままに体を洗って着替えをすませる。

 ここは様々な食材が入手できるダンジョンが集中する特別な都市。通称『美食都市フィルエール』だ。そしてここはそんなフィルエールの中にあるオレの家。元宿屋で今はレストラン『ラグナシェリー』だ。

 つい先日まで閉店していたこの店だが、新しい料理人『フウカ=ヤマグチ』が入ったことにより再び営業を再開。

 黒髪に黒目の珍しい見た目の少女。常識を持たない世間知らずだが、本人曰く『マチチュウカ』という料理屋の娘だから色々と料理が作れるとのことだった。

 実際彼女の作る食事は見た事のない美味いものが多い。まあ商売にするには高額になりすぎて提供できないものも多々あったが。

 紆余曲折あったが無事営業も軌道に乗り、それなりに繁盛する店になってきた。


「フィルー、まだー?」

「今行く」


 オレがホールにでれば注文を受け、片付けもできるから机と椅子を追加でだす。

 元々宿屋に併設する食事処だったため宿泊客の分+α程度の広さしかない。さらに従業員も少ないから一度に対応できる客の数が多くないのがネックだ。


「フィルさん、おはようございます」

「おはようヘレン」


 ホールスタッフの青毛の猫獣人のヘレンと挨拶を交わす。


「げ、フィルの時間かよ」

「ヘレンちゃーん! 注文をおねがーい」

「目の前にオレがいるだろうが」

「「 ブーブー! 」」

「いいから注文しろ。追い出されたいか?」

「「 さーせんした! 」」


 謝るくらいなら最初から絡んでくるんじゃねえよ。


「特盛り豚丼と重ね卵を3人前、卵スープとワインをボトルで」

「あいよ、4250ゴールドな」

「了解了解」


 注文を受けたら金額を伝える。先に金をもらうのがルールだ。支払いを渋るやつは食い逃げしようとするやつだけである。そういう奴は叩き出していいと伝えてある。周りの客も手伝ってくれることがほとんどだ。

 常識知らずのフウカが作ったメニュー受けに注文品の数字を入れると料金が出てくるので金額を伝えるだけで済む。そして金を受け取っとったら決定を押せばいい。そうすると文字が消えて厨房へ注文が飛んでいく。

 こういうのを簡単に作るからあいつはおかしい。


「お? どうした?」

「いや、なんでもない」


 これに限らずおかしなものはいくらでも厨房に転がっている。それを思い出すと苦笑いしか出てこないな。


「3番さんとこのたまチャーとスープ、サラダね」

「はーい」


 こうしている間にも料理は着々と提供されている。

 さてワインを出すか。


「ほらよ」

「おう、お前も呑むか?」

「……あとでにするわ」

「はっはっはっはっ、すっかり尻にしかれてんな!」

「うるせーよ」


 オレの名前はフィルフリッツ。赤い髪を持ち、獣魔であるラグナを連れた男。元は宿屋の息子でこのフェルエールを本拠地にするB級の冒険者だ。

 相棒のラグナと共にダンジョンに潜るオレの二つ名は『雷鳴の狼使い』である。決して『卵の兄ちゃん』や『エプロン狼』ではない。


「卵の兄ちゃん! 重ね卵おかわり!」

「殺すぞガキ」

「怒ったぁ!」


 ふざける子供もいるがすでに金も用意していたので注文を書き込む。


「ったく、食い終わったら早く帰れ。次の客が入れねえからな」

「分かってるってー」


 席数は増やせても料理しているフウカの手が増えるわけではないのだ。回転率を考えると長々と居座られるのは迷惑なのである。


「こんにちは、フィルさん。こちらでフウカさんにお願いしますと」

「また砂糖持ち込みか……たぶん前回分まだ残ってるぞ?」

「じゃあ持ち帰りもお願いしておいてください。サフィさまにもお土産にしますので」

「へいへい、仰せのままに」


 貴族のご令嬢は注文が多い。


「リアちゃんもきたよ!」

「帰れ!」

「あの、リアンノン様。せめて並んでください」

「あ、そうだね。失敬失敬」


 腹ペコエルフも現れた。やべえな、食材は追加しといたが、足りるか?



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