恋の気配
優月紬
第1話
「あの人達、どう見ても両想いなのにどうしてくっつかないんだろうね」
私はコーヒー片手に、目の前に座っている親友に視線を向けた。
話題に出したのは、親友と私の、共通の友人達の話だ。
「友達以上恋人未満の状況を楽しんでるんでしょ、お互いに」
「楽しいのかな、それ」
あの人達は幼馴染なんだし、もうそんな関係は何年も続けた後なのでは?と内心で思う。
私はぬるくなってきたコーヒーを一口飲み、また親友の声に耳を傾ける。
「俺は結構楽しんでるよ、友達以上恋人未満」
「そんな相手いるんだ、知らなかったよ」
私は目の前にいる親友の発言に、純粋に驚いた。だってこの人、私以外の女の人と話してる姿すら見たことない。
「……まあ、そうなるよな」
「何が?」
「なんでもないよ」
目の前にいる親友は、微笑みながら紅茶を一口飲んだ。私は彼をじっと見ながら、相変わらず端正な顔立ちをしているな、なんて、どうでもいいことを考えていた。
「まあ、どのみち私には縁遠い世界かな。恋とかよく分からないし」
初恋すらまだな私に、恋は早い。恋は、きっと運命的な出会いがあって、心臓が跳ねて、お互いしかいないってすぐに分かって、甘い気持ちになるものだから。
だから、将来私が恋するであろう運命の相手とは、友達以上恋人未満なんて曖昧な関係には、絶対にならない自信がある。
「俺たちってさ、周りからどう見えてると思う?」
「親友でしょ。誰よりも一緒に過ごす時間が長い、友達だから」
「だよな。まあいいよ、今はそれで」
目の前にいる私の親友は、飲んでいたコーヒーカップの中身を一気に飲み干した。
「さて、この後どうする?映画でも行く?」
「うん、見たいやつあったから行きたいな」
カフェの外に出て、私はいつものように親友に手を繋がれた。はぐれないか心配になると言われて以来、人混みを歩くときは必ずそうしている。
「どうしてくっつかないんだろうな、俺たち」
「何か言った?」
「言ってないよ。行こうか」
親友が隣で何か呟いていた気がするが、周りの喧騒に消されて何も聞こえなかった。
彼は、私の手を握る力を少しだけ強くし、私を優しい目で見つめて微笑んでいた。
私はそんな親友を見て、なぜだか恥ずかしくなり、目を逸らした。
恋の気配 優月紬 @yuzuki_tumugi
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