書けない

rainscompany

第1話

拝啓、衛星軌道より愛を込めて

お元気ですか?貴女が逝ってしまってから、もう四十年が経ってしまいました。この度は節目の年ですから、手紙を書くことにしました。

この四十年の間に、人類を取り巻く環境は大きく変わりました。十年前、ついに人類は一致団結し、本格的な宇宙開発を始めたのです。そして五年前には地球外への移民が始まり、そうして今日、美しく青き我らの母星を窓の外に認めることも、さして珍しいことではなくなりました。

かく言う私も今、宇宙ステーション「ヱルトリウム」に移り住み、手が届きそうな満天の星空へ思いを馳せています。もっとも、星より先に還暦に手が届きそうなのですが(笑)

冷たくなってしまった貴女の側で泣きじゃくっていた私。それも


ここまで書いて、鉛筆を持つ僕の手は止まった。

違う、違うんだ、僕が書きたいのはこういうお涙頂戴の感動譚じゃなかったはずなんだ。それに今の時代に衛星軌道上とか、宇宙開拓史とか、そういう使い古されたSF要素てんこ盛りというのも頂けない。

頬杖をついて考え始めた。そのときようやく、作業用BGMの存在を思い出した。ナンバーはビートルズの「


ここまで書いて、ワープロにネタを叩きつけていた俺の手は止まった。

なんてこった。小説を書けないことをネタに小説を書く、だなんて良い案を思いついたと思ったのに、なまじ具体的な曲を挙げようとしたことがアダになるとは!作品の雰囲気が迷走してしまっている。大体、希望的観測で月末の締め切りに間に合わせようとしたこと自体が愚かだったのだ。まだオチも決まってないのに!だが


ここまで書いて、キーボードを打つ私の手は止まった。そもそも、私はそこまでビートルズに詳しくないのである。これだけ有名なのにも関わらず、数曲の有名なフレーズを、なんとなく、限定的に、ふんわりと知っているだけじゃないか!

ならばどうする?そう、実際に聞きあさってみるのが一番だ。広大なネットの世界へ音楽を探しに行った私の手は、もう数時間はキーボードへ戻ってこないだろう。



ここまで書いて、私の手は止まった。





書けない/諸井込九郎

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