シルバーオーダーVSジルヴェル
高層ビルの屋上にて青いエネルギーと黒いエネルギーがぶつかりあっていた。銀河とジルヴェル、オーダースピアと闇を纏った拳である。
衝撃波が巻き起こり床が抉れた。拮抗していた両者は互いに吹き飛んでフェンスに衝突する。
「くっ、ふふふっ。やっぱり面白いな、シルバーオーダー」
砂埃の付いた肩を払いながらジルヴェルは立ち上がった。その碧い隻眼が愉快げに煌めいている。
「ファイブオーダーのオーダースーツやオーダーブレス、各種オーダーウェポンはオーダーエナジーを具現化・固体化したものだが……。そのスーツと槍は、まさにそれだろう? 近代のオーダー星人ですら再現不可能だった、二千年前に精霊の消滅とともに失われた古代技術。その技術がなかったためオーダー星はファイブオーダーを量産できなかった。まあエナジーの液体化までは成功したようだけどね。でもまさか、遠く離れたこの惑星でその古代技術が再現されるとは……。広い宇宙、何があるかわからないものだ」
「うちのエンジニアの人とまったく同じこと言いやがって。随分詳しいんだな」
銀河もフェンスから背中を離す。シルバースピアを構えた。
「オーダー星もファイブオーダーもそれなりに有名だったからね。こんな辺境の銀河系には伝わっていないだろうけど。……いや、一応伝わってはいたのか。そう考えると本当に大したものだ」
「相変わらずお喋りな奴だ」
銀河は鬱陶しげに吐き捨てる。ジルヴェルの減らず口は止まらない。
「人恋しいのさ。ダークマターには粗野で野蛮な奴が多すぎる。会話レベルが合わない相手との交流ほど無価値なものはない。その点、この惑星の住民たちはみんなある程度賢くて飽きないよ。君も付き合ってくれ」
ジルヴェルの周囲に野球ボールほどの大きさの闇の球体が三つ展開された。そこから一斉に紫がかった黒い光線が放たれる。
「嫌なこった!」
銀河はフェンスに沿って駆け出した。回避には成功したものの、三本の光線は角度を変えて銀河の足跡を追うように執拗に追尾してくる。
(しゃらくせぇな)
銀河は光線の発生源たる闇の球体へ穂先を向けた。柄のボタンを長押しすると青いエネルギー波が連射され、三つの球体全てを相殺する。邪魔するものがなくなり、銀河は素早くジルヴェルとの距離を詰めた。
横薙ぎの一振りはしかし、後方へ跳躍したジルヴェルに躱されてしまう。彼はフェンスの上に着地して銀河を見下ろしてきた。
「色々とギミックがあるのは知っているけど……それ、自分で考えたのかい?」
「当たり前だろ。こちとらロマンガン積みだぜ」
シルバースピアの柄を肩に乗せながら銀河は言った。ジルヴェルは右手を顎に添え、
「ふむ……。惜しいね。このレベルのオーダースーツを量産すれば、僕たちとのゲームを有利に進められるというのに」
銀河は一瞬だけぎくりとする。ヘルメットで表情が見えなくてよかったと思いながら、
「しゃあねーだろ。オーダーエナジーの具現化技術の完成は偶然の産物だ。俺だってどうやって作ったのか理解できてないんだからよ」
この言葉は全て真実だが、隠そうとした事実もある。銀河のシルバーブレスを解析していた組織のエンジニアがつい最近、その技術の再現に僅かながらも成功したのだ。量産とまではいかないものの、第二、第三のシルバーオーダーの登場は近い。本来は得意げに言ってやりたいところだが、流石にこの情報を敵対者に教える義理はなかった。
ジルヴェルはつまらなさそうに肩をすくめる。
「まあ何だっていいけどさ。君には興味がある。一対一でいい機会だし、君がどこまでやれるのか知っておきたいな」
彼はそう言って笑うと左手を天に掲げた。途端に真上の雲が真っ黒に染まり、渦を巻いて一箇所に集約していく。銀河は何か、非常に嫌な寒気を感じ取った。
「シルバーオーダー……君には僕の本当の姿を見せてあげるよ」
狂気的な笑みを浮かべるジルヴェルの左手に紫電が落ちる。瞬間、闇の力が肥大化し、彼を中心とした黒い爆発が巻き起こった。
銀河は足腰に力を込めてその衝撃を受け止める。闇に包まれているジルヴェルのシルエットが明らかに変化していた。
ジルヴェルが左手で闇を払うとその姿が露わになる。全身がパンプアップし、紫色の蛇の鱗のようなものに覆われている。額と顎は蛇の上顎と下顎に覆われており、頭部は蛇に丸呑みにされているような様相になっていた。モヤのような闇に包まれた顔面からは右眼が強調するように青い光を漏らしていた。
胴体と下半身は筋肉のように隆起しつつも、どこか無機質な雰囲気も感じられる。生物なのか無生物なのか判然としない、おどろおどろしい出で立ちだ。
見た目はもちろん、闇そのもののごとき圧力が銀河へプレッシャーをかけてくる。
「負けイベントに君がどこまで食い下がれるか、見ものだ」
ジルヴェルの声はくぐもったような不気味なものに変質していた。彼の右手に黒い閃光が瞬いて長剣が展開される。
その言葉が第二ラウンドの合図となった。フェンスを蹴って飛び出したジルヴェルは銀河が反応する間もなく長剣を振り抜く。
「ぐあああっ……!」
痛み、衝撃とともに吹き飛ばされた銀河はフェンスを突き破って直線上にあった別のビルの壁に追突した。そのまま落下していくが、飛びかけた意識を覚醒させ、シルバーブレスに手を伸ばした。タップすると空飛ぶバイク──シルバーライドが現れ、シートの上に着地する。モードを手動操縦から自分の意思で操作する思念操縦に切り替えた。
そのままスケートボードのように宙を翔けていく。ビルの周りを旋回すると、浮遊するジルヴェルと邂逅した。
両者は弾かれたように互いに向かって超速で突っ込んだ。交錯する瞬間に得物を振り合い、衝撃とともに甲高い金属音が鳴り響く。
「ちっ……!」
舌打ちをしたジルヴェルのバランスが僅かに崩れる。脇腹にシルバースピアが当たったのだ。
一方の銀河は素早くシルバーライドをUターンさせ、追撃を仕掛けにかかった。しかしそこはダークマターの幹部だ。ジルヴェルはすぐに態勢を立て直し、左手から闇の波動を放ってきた。
「ぐおおおっ!」
銀河はシルバーライドごとさらに上空へ打ち上げられ、高層ビルの屋上に落下してしまう。
シルバースピアを支えに銀河が立ち上がると、ジルヴェルが悠々と階段室の上に着地した。彼は肩を揺らして笑いながら、
「意外と食い下がれている方だと思うよ、シルバーオーダー。戦闘力という面において、僕はダークマターの中でも最強という自負がある。その僕とそこそこ渡り合えているんだからね」
「最強なのに、ボスではないんだな」
銀河は挑発するような声音で吐き捨てた。ジルヴェルは気にする素振りも見せない。
「あくまでも戦闘力の話だからね。僕の能力はボスとは相性が悪い。
「なるほど。お前の闇攻撃は全て無力化されちまうわけか。……でもよ、そんなことを敵に話していいのかよ?」
「君たちにデスゴルドが倒せるなら倒してほしいくらいだからね。もちろん僕を倒すより先に」
「それでお前がトップに成り上がる、ってか? 食えない奴だな」
表情がわからなくとも、いつもの軽薄な笑みがありありと脳裏に浮かんでくる。銀河は肩をすくめると、
「お前もデスゴルドも俺たちがぶっ倒す。順番は知らねえが……ここで引かねえなら、今、お前から仕留める!」
銀河はシルバーブレスの液晶画面右上に映る赤い『G』という表記をタップした。画面に『GALAXY MODE』という文言が浮かび上がる。……自刻は十二時四十三分。
「ギャラクシーチェンジ!」
その掛け声により承認が完了した。シルバースーツの胸部アーマー中央に埋め込まれたエネルギーに満ちた球体の色が青から赤に変色する。それに伴って全身を巡るオーダーエナジーが爆発的に増加し、赤い閃光が体外にまで迸った。赤いエナジーはシルバースピアをも包み、穂先の形状を三叉に変化させる。
荒れ狂う赤いオーダーエナジーを前に、流石のジルヴェルも驚いたようだった。
「出たね、
そして、赤と黒の流星がぶつかり合った。
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