第32話 ばあちゃんの家 in the dark?
帰りも大地と藤井は車の後部座席で黒い布を被った。
それを見た大地の父が八谷に
「丸一日配信がなくて、携帯も繋がらなかったら、警察に相談しますからね。」
と言っているのが聞こえた。
「着いたぞ。起きろ。」
黒い布を被って車に揺られているうちに眠ってしまっていたらしい。
着いた所はちょっとぼろい小屋の前だった。
車を小屋に隠し、黒い服に着替えさせられた。
八谷は荷物の中からヘッドライトと小さなリュックと長靴を取り出し、笑いながら言った。
「ゴム長靴履いてると犬も跡を追えないって噂だから。」
「確認したいんですけど、犯罪じゃあないですよね?」
「もし捕まっちゃったら弁護士と一緒に会いにいくからさ。」
大地は 「勘弁してくださいよ。」と言ったが、
藤井は 「その時は俺の代わりにちゃんと動画撮っといて下さいよ。」だった。
ヘッドライトを装着し、暗い山道を歩いて行くと、昼間確認したとおりに
あの古い家と蔵と納屋が見えた。
昼間見た時はぱっと視界が開けた感じがしたし、かやぶき屋根の母屋も漆喰の白壁の蔵もなかなかにメルヘンチックだったのに、月明かりに浮かび上がるそれらには、
日本のホラー映画の怖い場面の始まりを予感させる何かがあった。
おバカさんの若者2人が、よせばいいのに調子に乗って、悪いもんに近寄るアレだ。
大地は思った。
〈良くないことが起きるフラグでは?〉
「大君、ヘッドライトいったん外そうか。俺の方から照らして撮ってみるよ。」
藤井さんには恐怖心ってものはないのかな。
「大君何?どうかした?」
「なんでもなーい。」
「じゃあ、庭の真ん中に立って。全体的に撮っていくから。まず母屋。
次が蔵でその次が納屋ね。その後が家の中。もう撮り始めていい?」
「はーい。」
仕方ない始めるか。
【ライブ配信 ばあちゃんちに行ってみた。in the dark】
「さあ、ついにやって来ました桂子の実家。なんで夜かと言いますと、
暗い方が面白いと思ったからでーす。でもすでに後悔してます。ちょ~怖いです。」
大地は後ろを振り返り、
「母屋の方をご覧ください。昼間ちょっと見に来た時は、まんが日本昔話風のメルヘン感がありましたけどね。メルヘン改めオカルトチック。そしてこっちは蔵。なかなか立派です。何が入っているんでしょうか。で、こっちが納屋。まあ、普通に農機具とかが入っているんでしょう。」
玄関の前まで歩き、
「お待たせいたしました。いよいよ家に入りまーす。」
ガチャ。鍵はすんなり開いた。
「玄関オープン!」
藤井がゆっくり歩いて来て、大地の顔を撮りながら先に中に入り
「では入ってみましょう。」
の声でスマホを家の中に向けた。
そこは土間になっており、土間の先にはちゃんとリフォームされた、ちょっと古め?な台所があった。
土間の右側は壁で、靴箱、掃除道具、段ボール箱が2個おいてあり、
左側には、大地の膝よりちょっと上くらいの高さの板張りの廊下が台所まで続いていた。
その廊下の幅は1mくらい。廊下の下には全部引き戸がついていた。
廊下の上はというと、下半分は木の板、上半分は硬そうな和紙で出来た襖だった。
「襖オープン。」
暗闇の恐怖で声が震えた。
それから、これは不法侵入ではないのか?の恐怖からくる震える手で襖を開けると
そこは二間続きの座敷になっていた。
藤井にせっつかれて大地は嫌々靴を脱いで座敷にあがった。
座敷の北側にも襖があるので開けてみると、やはりそちらも二間続きの座敷で、
襖を全部開けると1部屋12畳ほどの広さの部屋が4つつながって広がった。
藤井のヘッドライトだけでは全体を照らすことは不可能な広さだった。
仏壇を映すと仏壇だけ、神棚を映すと神棚だけが暗闇に浮かび上がってくる。
もう怖すぎてどうにも喋れなくなり、動画配信を終了した。
「やっぱり怖すぎるよなあ。」
藤井はそう言いながら笑っている。が、大地も自分のヘッドライトをつけると、
急に恐怖心が和らいだ。
「自分で照らして見たい所見れるとそんな怖くないかも。」
「へえ。」
それならばと、とりあえず2人で家の中を見て回ることにした。
土間から続く廊下はいわゆる外廊下で、家をグルっと一周しているようだった。
2人は東南の角にある玄関から反時計回りに外廊下を歩いてみた。
南側は雨戸が閉まっていて良く分からないがおそらく縁側だ。
西南の角に納戸。北西の角に昔のトイレ跡?北東に台所。
台所付近だけリフォームしたらしく、台所の周りに新しい(といっても20年は経つかな?)トイレと風呂と洗面所があった。
リフォーム済の所には秘密めいたものは何もなく、
家を取り囲む外廊下にも、これと言ったものは何も見当たらず。
「だめだ、やっぱり向こうの怖い部屋の神棚とか仏壇とか辺りで探さないといい画が撮れないな。」
そう言い始めた時だった。
ブルルルルルルル
わずかにエンジン音が聞こえ、2人は慌てて明かりを消し、身を潜めた。
車は家の前に停まったようだった。
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