願いを叶えるおまじない
@okugawakeiko
第1話 プロローグ
4月21日午前0時。2つのライブ配信が始まった。
村田大地はその片方の配信だけを狭い自宅アパートで見ていた。
廃墟のようなコンクリート製の建物の、そこは屋上だろうか。
薄汚れた建物のへりに座る若い男が、斜め後ろから映されている。
少し離れたところに錆びた手すりのような柵があるが、手の届く範囲には何もない。
眠っているのだろうか?上半身がゆらゆらして落ちてしまいそうだ。
大地は思った。
どうか弟じゃありませんように。
ブーブーブーブー
スマホの振動音がした。大地のスマホではない。画面の中でだ。
「留守番電話サービスに接続します。ピー。」
音声案内に続いて女の金切り声が聞こえる。
「優君やめて。お願いだから考え直して。」
女の金切り声が続き、座っていた若い男のゆらゆらは止まる。
「母さん?。」
そう呟いて半分振り返ったその顔。やっぱり弟だ。
女は何か叫び続け、弟は立ち上がり、かろうじて落ちずに建物のへりを
歩き始めた。
そこへ、別の男が飛び出してきて叫んだ。
「そっちじゃだめだ。」
弟は手すりのような柵に手を伸ばしたのに。
錆びた手すりをつかんだ瞬間、手すりごと暗い崖の下へ吸い込まれていった。
その深夜のライブ配信は即座に止められ削除されはした。
それでも視聴していた数百人は、はっきり見てしまった。
20歳前後の青年が、崖に転落していく様を。
そして、大地が見ていなかったもう一つのライブ配信。
「粟の粒ほど恨んでくれる。」
青年に「考え直して。」と懇願していた母親らしき女の、鬼の形相と手から滴る
鮮血。
そして呪いの言葉。
こちらの配信も即座に止められ、削除された。
両方を同時に視聴していた者の多くは、宗教法人『愛と献身の家』の信者であった。
彼らは何を見ても口をつぐんでいるだろう。
それ以外の主な視聴者にとっては、ドッキリ動画か本物の危ない動画か。
いずれにしても非常に楽しい配信だった。
大地は小さいガラステーブルの上に置いたスマホを前に、息を吸い込んだきり
吐くことも忘れてしゃがみ込んでいたのだが、息を吐く時にはつぶやき声が漏れていた。
「母さん。優。なんでこういうことになるんだよ。」
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