過去の栄光

遥 述ベル

スマホで狂った人生

 私には憧れの人がいる。

 その対象は多くいるが、私が最も憧れているのは過去の自分だ。

 具体的には中学生の時の私。

 文武両道で周りからも憧れの的。

 テストではいつも一位。部活でもバスケ部でチームを引っ張り三年の時には全国大会に行った。

 日々充実していた。なんの不満もない。

 多感な時期ではあったが、まだこの頃はいい意味で鈍感で人にどう思われているかなど気にしていなかった。


 私の日常が変わったのは高校生になってから。

 私は高校に上がると同時に親にスマホを買ってもらった。

 友達には早く買うよう急かされていたし、私としてもやっと手に入ったと喜びが込み上げていた。


 そこから私の凋落ちょうらくは始まった。

 スマホにのめり込んでいったのだ。

 友達と深夜までラインやその他SNSでやり取りし、流行りについて行くためにアニメやゲームにも手を出した。

 SNSを始めると人の噂が多く入ってきた。

 私のことを言っているような呟きを見ると心がざわついた。

 私は文字として残る言葉に振り回されるようになった。

 ある時、SNSで友達同士が喧嘩していた。

 私は仲裁に入った。

 その言葉がむしろ他人を傷付けた。

 私が喧嘩するようになった。

 SNSでの自分は知らない自分だった。


 周りの私への評価も変わっていった。

 私は学校で孤立するようになり、高校に行けなくなった。

 そして通信制に編入した。

 それまでの交友関係は清算した。

 だけどアニメやゲームなどはやめられず、スマホに依存しているのには変わりなかった。


 現在25歳、会社員。

 必死に生きている。

 しかし、私は平凡で一般的で普通な人間。

 私は後悔している。

 いつでも取り戻すチャンスがあった。

 今からでも遅くはないかもしれない。


「あの頃は良かったな」


 言うだけ。憧れるだけ。

 もうスマホは手放せない。

 仕事にも必要不可欠だ。

 そんな言い訳をして、後悔の元凶にしがみつく。

 情けなくて仕方ない。

 でも、失えば私には何も残らない。

 その恐怖には勝てなかった。


「どうしてこうなったんだろう」


 私には無限の可能性があったはずだ。

 輝かしい過去にはもう戻れない。


「変わらなきゃ……。なんとかしないと」


 普通に満足出来ない私は行動にならない決意を一人呟く。

 誰に相談するでもない。


 今の私にはスマホしかない。

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過去の栄光 遥 述ベル @haruka_noberunovel

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