私の推しのコスプレイヤーの正体って、実は憧れの先輩でしたっ!?

啄木鳥

推しと憧れ

(はぁ~~~、最高っ!!)


 放課後、誰もいない教室で、私、小泉こいずみ紗良さらは一人スマホを見つめながらにやにやしていた。


 スマホ画面に映し出されているのは、私の推しのコスプレイヤー、『SAKURAサクラ』さんだ。


 SAKURAさんとは、私が中学三年生の時くらいからコスプレイヤーとして活動し始めた人で、本名や素顔、性別などを一切公開していない。


 というか、私の名前(紗良さら)と一字違いなんだよね!! なんか運命みたいなものを感じる~!


 SAKURAさんは主に男性キャラのコスプレをしていて、それがほんっといつもいつもかっこいいんだよね~!


 身長は170cmちょっとくらいでそこそこの高さなんだけど手足がすらっとしていて、男性キャラの中でも中性的な、少し女顔のキャラコスがほんっとに似合いすぎてて、新しい写真が投稿されるたびに毎回尊過ぎて悶えています……


 そして、実はさっきまで悶えまくっていた。今回投稿されたのは、私が大好きなスポーツアニメのメインキャラの一人、水神みがみりゅうくんのキャラコス。


 いつもとは違う座って全身の力を抜いたようなポーズをとることによって、流くんの特徴である気だるげな雰囲気を完璧に再現されていた。今回のはかっこいいというよりかは可愛い、いや、少し色っぽかったとも言えるかな……?


 それに、服装もメイクもかなり凝っていて、私的に流くんのビジュで特に好きな少し青みがかった眠たげな眼もしっかりと再現されていて感激したな~!


「よしっ!」


 そうして、私は思う存分推しを堪能した後、ハイテンションのままもう一人の推し、というよりも憧れの存在を拝むために教室を出てグラウンドへと向かった。




(あっ、いた!)


 外に出てグラウンドに入ると、私の憧れである存在、夢咲ゆめさき麗良れいらさんがグラウンドの砂を蹴り走る姿が真っ先に目に入ってきた。


 夢咲先輩はこの高校の二年生、私よりも一つ学年が上の先輩だ。


 髪は艶があり癖のない髪質で、肩に届くくらいまで伸ばしている。キリッとした目鼻立ちで中性的な顔立ちをしていて、全体的に凛とした雰囲気を醸し出している。


 陸上部に所属しており部のエースとして活躍していて、その容姿も相まって結構な数のファンがいるんだよね~、主に女子生徒の。私も含めて。


 今も、先輩目当てに十数人ほどの女子生徒がグラウンドの周りに集まっていた。


(それにしても……)


 私はこれまで先輩の姿を見ていたんだけど、いつも少し違和感のようなものを感じていた。


 それは…………先輩がどことなくSAKURAさんに似ているということだ。


 なんかうまくは言えないんだけど、雰囲気というか、佇まいというか、そういうのがどこか先輩とSAKURAさん似てるんだよな~。


 だけど、なんとなく似てるってだけで別人ってことも十分考えられる。


 本人に直接聞けばいいんだけど、絶対緊張するし、全くの別人だったら恥ずかしいし、まずどう聞けばいいのかわからないし……


(私は一体どうすればいいんだー!)


「……危ないっ、避けて!」


(えっ?)


 頭を抱えて悩んでいたら急にそんな焦っているような声が聞こえてきたので咄嗟に顔を上げると、サッカーボールが私めがけて飛んできていたのが見えた。


 私は咄嗟のことで足がすくんで体が動かず、ぎゅっと目をつぶる。



 ……………………



「…………?」


 少し時間が経ってもサッカーボールがぶつかったような衝撃が来なかったので、恐る恐る目を開ける。


「ふぅ……大丈夫だった?」


「ゆ、夢咲先輩!?」


 目を開けると、私の目の前に夢咲先輩の姿が。


 突然のことで混乱していると、先輩が心配そうに私のことを見て尋ねてきた。


「えっと、怪我はないかな?」


「あっ、えと、はい、大丈夫です……」


 私は混乱しながらもそう返事をする。


 ふと視界の端に映ったものに目をやると、サッカーボールが転がっていた。どうやら、先輩が私のことを助けてくれたようだ。


「そっか、よかった」


 ほっと安心したように息を吐く先輩。私はその言葉を聞いて、ちゃんとお礼を言うためにサッカーボールから視線を移してもう一度彼女の方を見る。


(ん?)


 そこで感じる違和感。何だろう……目?そういえば、先輩の目、少し青みがかっているような……


(あっ!)


 そこで、私はあることに気が付く。


「じゃあ、気を付けてね」


 夢咲先輩は私の無事を確認したところで、また部活の練習に戻ろうとする。


「あっ、あのっ!」


 そのタイミングで私は咄嗟に先輩のことを呼び止める。


「えっ、何?」


 私の声に反応して、先輩が振り返る。


「あ、えっと、その……」


 呼び止めたはいいけど、もともと私は人と積極的に話すタイプではない、いわゆる陰キャなので、上手く言葉が出てこない。


 しかし、ここで聞かなかったら多分一生聞く機会はないと思って、勇気を振り絞って夢咲先輩に尋ねる。


「あっ、あのっ、夢咲先輩って、その、『SAKURA』さん、なんですか?」


「…………えっ?」


 私がそう尋ねると先輩は一瞬固まる。


 と思った次の瞬間、私の手を引いて猛スピードで校舎裏まで連れてこられた。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」


「なっ、なんで?」


「……えっ?」


「なんで、知ってるの?」


 久しぶりに全力疾走したので息も切れ切れになっていると、焦ったような表情をしている夢咲先輩に尋ねられる。


「はぁっ、ちょっと、はぁっ、待って、ください、はぁっ、はぁっ……」


「えっ?あっ、ごめん」


 私が息を整えるために少し待ってくれるよう伝えると、先輩は私がぜぇぜぇしていることにようやく気が付いたみたいで、謝ってくれた。


 そうして、しばらく、息を整えるために楽な姿勢を取る。


「もう大丈夫、かな?」


「あ、はい、大丈夫、です」


 激しくなっていた息もだいぶ落ち着いてきたので、私は先輩と向き合う形を取った。


「それで、なんで私の正体っていうか、その、コスプレしてること、知ってるの?」


 先輩は少し言いづらそうに、肝心のことを尋ねる。


「あ、えっとですね……まず、私、SAKURAさんのファンで、夢咲先輩にも憧れてて、前からどことなく雰囲気が似てるな~、とは思っていたんです」


「えっ、私のファンだったの?ありがとう!」


 憧れの夢咲先輩、いや、SAKURAさん?にお礼を言われて、私は思わずニヤついてしまいそうになるのをぐっとこらえて話を続ける。


「あ、えと、それでさっき気が付いたんですけど、昨日投稿した流くんのコスプレのときに付けてた少し青みがかったカラコン、外し忘れてて。それで、夢咲先輩がSAKURAさんだって気が付きました」


「えっ!」


 先輩は驚いたような表情をすると、すぐにスマホを取り出して確認する。


「あっ、ほんとだ!」


 そうして、先輩はスマホをしまって私の方を向く。


「あの、このことはできれば秘密にしておいてくれない、かな?」


「あっ、はい、勿論です!絶対秘密にします!誰にも言いません!」


(あっ、ちょっと声大きすぎかも)


 絶対に秘密にするということを先輩に伝わるように声を張りすぎて、逆に怪しいと思われていないか不安になる。


「良かった~、ありがとね!」


(あっ、良かった、変に思われてなくて)


 先輩の返答を聞いて、私は内心ほっとする。


「あっ、良かったらなんだけど、ライン交換しない?」


「……えっ?あっ、えと、はい、お願いします……?」


 そうして、私はスマホを取り出してラインのアプリを開いてフレンド登録をする。


『「SAKURA」さんがフレンドになりました!』


(な、んかよくわからないまま憧れの人とフレンド登録してしまった……!?)


 あまりに突然の出来事だったのでいまいち実感が湧かないでいると、先輩から話しかけられる。


「よろしくね、えっと……」


「あっ、一年の小泉紗良、です」


「そっか!よろしくね、小泉さん!」


「はっ、はいっ」


(くぅ~~~~っ!)


 夢咲先輩の眩しい笑顔でそう言われた私は、内心で悶えていることが表情に出ないよう表情筋に力を入れる。


「じゃあね!」


「あっ、はいっ!」


 そうして去っていく先輩に向かって、私は小さく手を振る。


(……?どうしたんだろ?)


 かと思ったらなぜかこちらに戻ってきたので、私は首を傾げる。


 先輩は私の近くまで来ると耳元に口を近づけ、囁く。


「次の投稿、ルキアをするつもりだから楽しみにしててね」


 ルキア……って、あの異世界アニメの主人公で私の激推しキャラの!?


 ぜっっっったい似合うの決定でしょ!確定でしょ!


「あっ、ありがとうございますっ!!」


 あまりの感激ぶりに思わず頭を下げて大声でお礼を言ってしまう。


「おっ、うん!気合入れてやるから楽しみに待っててね!」


「はっ、はいっ!勿論です!」


 そうしてこの日、私は、一人の推しと一人の憧れの人とお友達になるという、これからの人生でも起こりえないであろう奇跡を起こした自分を褒めまくって、幸福感と高揚感を胸に、一人帰路に着いた。

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私の推しのコスプレイヤーの正体って、実は憧れの先輩でしたっ!? 啄木鳥 @syou0917

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