【十四年分の大好き side 奈津美】
第5話
私は、仕事で群馬に出発した。移動中の車内で、うとうとと眠りの世界を微睡む。
その夢の中で、十五歳の私がセーラー服を身につけて、ポニーテールを揺らしながら歩いていた――。
***
最寄り駅から高校までは、徒歩でおよそ二十分の道のりだ。
高校は、飲食店や商店で賑わう駅前から離れた、住宅街の奥に建つ。広い運動場を供え、緑も多い高校の環境は悪くないが、反面、通学に時間がかかるのがネックだった。
「うーん、寝坊した。これじゃもう、一限には間に合わない。……お腹が痛かった事にして、二限から出ようっと」
生徒会にも所属して、成績も上位。そんな私は、クラスメイトや教師たちから模範的とみられていたが、実際には時々授業をサボってみたり、程よく息を抜きながら、巧く立ち回っていた。
今日も一限のサボりを決めた私は、通学路を外れ、一本通りを入った先にある公園に向かった。
錆びたブランコと鉄棒、手入れがなされぬまま伸び放題となった草。小さな公園は、まるでその存在自体、人々の記憶から忘れ去られてしまったかのようだった。
これまでにも何度か立ち寄っているけれど、他の利用者と顔を合わせた事はない。
――ミィー。
……え? 鳴き声?
ところがこの日、訪れた公園に、初めて先客がいた。
――ミィー。
猫、かな?
耳を打つ、か細い鳴き声。私はその声に誘われるように、伸びた草を割り、公園の奥に進んだ。
声は、無造作に置き去られた段ボールの中から聞こえた。
「……わ、小さい」
覗き込んだ段ボールの中には、予想通り猫がいた。まだ目も開かない、生まれて間もない小さな子猫だ。
小さな体を使い、子猫は必死に鳴くが、途切れ途切れの鳴き声は弱々しく、生気に乏しい。
それもそのはず、朝露に湿った段ボールが、子猫が寒空の下で一晩過ごした事を物語っていた。
段ボールの中の子猫に、そっと手を差し伸ばす。触れた子猫は、ふわりと柔らかくて、温かかった。
手のひらに子猫の温もりを感じながら、私は取るべき行動に迷った。
……どうしよう。
この時、私の頭の中は「可愛い」や「可哀想」といった感情以上に「どうしよう」でいっぱいだった。
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