乙女ゲームの攻略キャラに転生した俺、女嫌いなので早く逃げ出したい(5/5)

惣山沙樹

05 トリの降臨

前回

https://kakuyomu.jp/works/16818622170589576247/episodes/16818622170589582564


 俺はどきダイの世界で高校三年生になった。

 このまま卒業式を迎えてしまえば、間違いなくトゥルーエンドだ。なんとしてでもそれは回避したい。


「梓、知っている範囲で答えてくれ。卒業式はどうなる……?」

(えっと……)


 梓によると、卒業式が終わった後、ラスボスと対戦するらしい。それに勝利すれば、攻略対象がプレイヤーに告白するという流れだ。


「もう一点確認がある。どきダイではネコ……つまり今の梓は存在するのか?」

(キャラクターとしては存在しないはずです)

「それなら、梓がゲーム進行を止めるキーになるかもしれない。俺に考えがある。卒業式の日、頼むぞ梓!」


 体育祭、文化祭、クリスマス。

 それらをあすみと過ごし、合間にデートもこなした。

 心にもない定型文しか話せない俺だったが、魂は熱く燃えていた。志吹の犠牲は忘れない。俺はあすみの思い通りになんかならない。この世界「ノー」を叩きつける!

 迎えた卒業式は、桜の花びらがはらはらと舞い散っていた。


(梓、大丈夫か?)

(はぁい、何とか……)


 式典中、俺はシャツの中に梓を入れ、腹の辺りで抱えていた。あからさまにもっこりしていたが、誰も気にしちゃいない。校長の祝辞が終わり、次の瞬間には屋上にワープしていた。

 そこに立っていたのは、あすみだ。


「伊織くん……来てくれたんだ」


 あすみの黒髪が風になびく。表情はよく見えない。あすみはこれから何が起こるか知っているはずだ。

 ラスボスとの……最終戦!


「トリーーーーー!」


 奇妙な鳴き声が辺りに響き、巨大な「トリ」が姿を現した! トリの降臨である!


「いくよ、伊織くん……!」


 あすみは剣を構え、トリ目掛けて飛びかかっていった。いつもの戦闘なら俺が支援するところだが、今回は違う。俺には梓というイレギュラーがついている!


「梓ぁ!」


 俺はシャツの中から梓を引っ張り出し、撫で回した!


「ごろにゃ〜ん!」


 梓が鳴くと、一枚の布団が出現した! 成功だ! やはり突破には梓が必要だったのだ! 俺は布団に寝転がり、梓をさらにわしゃわしゃ撫でる!


「よぉ〜しよしよしよしよしよし」

「にゃあ〜ん」


 こうしてふざけることであすみを放置し、トリによってあすみもろともここで敗北すればいいのだ! これが俺の作戦だ!

 ところが……。


「ダンシング伊織! いぇいいぇい!」


 俺の身体は勝手に立ち上がり、布団の上で前後左右に激しく腰を揺らすダンスを始めてしまった! 止まらない!


(えええええ!?)


 やはり俺は攻略対象という枠組みから外れることはできないのか。俺のダンスによってあすみの全能力が上昇してしまった!


「最終奥義! 天下無双!」


 あすみは剣を振りかぶり、トリの頭に叩きつけた!


「トリぃ〜」


 いともあっけなくラスボス・トリは消滅した。


「伊織くん……! よかった、あなたを守ることができて!」


 どこからかオルゴールの音色が流れてきた。俺の口はひとりでに動き出す。


「ありがとう。お前がいなければ、俺は死んでいたよ。今までも、色んなことがあったな。一緒に泣いて、笑って、時にはケンカして。お前と過ごした日々はダイヤモンドのようにきらめいているよ。連絡のない夜はアイ・ミス・ユー……それでも信じてたアイ・ビリーブ・ユー……。お前は俺を明るく照らす太陽であり、優しく見守る月だった。俺のロンリー・ハートを包みこんでくれたのはお前だけだった。これからもハーモニーを奏でていきたい。俺の気持ち、受け取ってくれ。愛してる……!」


 選択肢出現!


『わたしも愛してる!』

『ごめんなさい……』


【選択中です】


(やめろ! やめてくれぇぇぇ!)


 上の選択肢が点灯した。


「わたしも愛してる!」


 あすみの顔が徐々に近付いてきた。俺は動くことができない。あすみはほんのりと頬を染め、唇を……。


「うわぁぁぁ!」


 瞬間、視界が白くなった。


「伊織さん! 気がついたんですね!」

「……はっ?」


 俺は知らないベッドの上にいた。横には人間の姿の梓が座っていて、俺の顔を覗き込んでいた。


「あれ? あすみは? 告白は?」

「変な夢でもみてたんですか? ずっとうなされてましたけど……」


 梓によると、今は地震のあった三月三日の夕方。俺は頭を打って気絶し、病院に運ばれていたらしい。地震の強さは体感よりは大したことがなく、被害はほとんど出ていないのだとか。


「聞いてくれ梓、俺はどきダイの世界に……」


 あったこと……いや、夢だったのか。それを話すと梓は吹き出してしまった。


「やだなぁ、どきダイでは攻略対象が死ぬことなんてないし、バトルもないですよ? 伊織さんの乙女ゲームのイメージがおかしかったんですよ」

「そっか……じゃあ、志吹は無事なんだな?」

「あっ、志吹くんですか? 伊織さんが起きるまで暇だったんで、トゥルーエンド見ました!」


 梓は得意気にゲーム機を見せてきた。そこには、トゥルーエンド達成で見られるらしい志吹の笑顔のスチルが表示されていた。


「よかった……志吹、志吹ぃ……」


 俺はその日の夜に病院を出ることができて、梓に付き添われてタクシーに乗った。


「えっと、じゃあ伊織さんのマンションに……」

「いや、梓、もう少し付き合ってくれ。すみません、駅前で降ろしてください」


 梓と行ったのは家電屋のゲームコーナーだった。俺はそこで「どきどきダイナマイト」を購入した。


「俺も志吹の攻略を目指す!」

「何か思い入れできちゃったみたいですね。あっ、他にもどきダイには魅力的なキャラクターが……」

「いや、俺は志吹一筋だから。志吹以外は攻略しない」

「頑固ですねぇ」


 パッケージの志吹は、まぶしく笑っていた。




【TRUE END】

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乙女ゲームの攻略キャラに転生した俺、女嫌いなので早く逃げ出したい(5/5) 惣山沙樹 @saki-souyama

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