乙女ゲームの攻略キャラに転生した俺、女嫌いなので早く逃げ出したい(2/5)

惣山沙樹

02

前回

https://kakuyomu.jp/works/16818622170344395324/episodes/16818622170344407218


 俺はネコになった梓を抱きかかえて校舎裏まできた。テレパシーのようなもので意思疎通ができるようなのだが、人目につかないところの方がいいだろう。


(伊織さん、さっきの桜ヶ丘あすみ。あれはどきダイのプレイヤーのデフォルトネームなんです。おそらく伊織さんは……攻略対象ですね)

(マジかよ)

(名前忘れたんですけど、不良キャラが存在しまして、多分そのポジションに転生してます)


 梓によると、その不良キャラとは校門前でぶつかるのがファーストコンタクトらしい。さっきのは「イベント」だったということだ。


(そのキャラ、ろくに授業は出ないので成績は悪いんですけど、体育と美術は得意な設定で)

(俺じゃん)

(誰ともつるまない一匹狼で保健室でよく寝てて)

(うんまさに高校時代の俺)

(ネコが好き、なんですけど、不良がネコ好きとかありがちなギャップだなーって思ってあたしは萎えちゃって)

(ありがちで悪かったな!)


 梓が覚えている不良キャラ(今の俺)の情報はそれくらいらしい。梓がプレイした時は出会いはしたものの攻略へとは進まなかったようだ。


「どうすりゃいいんだよ……」


 ため息をついていると、後ろから声をかけられた。


「伊織。こんなところにいたのか」


 振り返ると、見覚えのある金髪のキラッキラ男子高校生がはにかんでいた。こいつは!


「西蓮寺志吹か!」

「……なんでフルネーム? 普通に志吹って呼んでよ、伊織」

「お、おう」


 すかさず梓に念を送った。


(こいつと俺って仲いいのか?)

(わかんないです! そんな設定まで知りません!)

(役立たず!)


 仕方がない。この志吹とはなんとなく話を合わせてみる必要がありそうだ。


「伊織、そのネコ……よくうろついてるよね。伊織が飼ってたの?」

「いや、飼ってるというか、なんというか……」


 すると、梓が志吹の足元にとてとてと歩み寄り、すねに頭をこすりつけだした。


(……梓、何やってんの?)

(だって! 画面越しでしか会えなかった、あこがれの志吹くんと触れ合えるんですよ! 決めた! あたし志吹くんを攻略します!)

(ネコの姿で?)

(ネコの姿で!)


 志吹は困ったように眉を下げた。


「ははっ、僕、懐かれちゃった?」

「あー、みたいだな。志吹が飼ってやれよ」

「うちの父さんが動物嫌いなのは伊織も知ってるだろ。伊織のとこのマンションは飼えたっけ」

「ああ……どうだったかなぁ」


 話を合わせるのって案外難しいぞ。志吹は俺(が成り代わった攻略キャラ)のことをどこまで知っているのだろうか。


「それより、伊織。今日は英語の小テストだぞ。それくらいは出ないと。ほら、教室行こう」

「いや、その、あんまり気が進まないな……こいつと遊んでるよ」


 俺は梓をひょいと持ち上げた。


(何するんですかー!)

(俺のマンションがあるっぽいし、まずはそこに帰るぞ。それで作戦会議だ)


 志吹はこう返してきた。


「まあ、伊織がそれでいいならいいけどさ。そういうネコみたいに自由なところ、僕はあこがれてたりするしね」

「ははっ……」


 俺は梓を抱えて校門へ向かった。


(伊織さん、マンションの場所わかるんですか?)

(わかんないけど、この高校から離れてみたら何とかなるだろ)


 実際、何とかなった。校門を出ると、大きなマンションまでワープしたのだ。集合ポストの「坂口」の表記を探す。九〇二号室。そこへ行き、いつの間にかポケットに入っていた鍵を入れてみると、難なく開いた。


「ただいま……?」


 そこはワンルームマンション。どうやら俺は一人暮らしらしい。シンプルな黒いパイプベッドに制服のまま寝そべる。梓は俺の肩辺りにちょこんと座った。


(伊織さん、もう諦めましょう。どきダイの世界で生きていきましょうよ)

(俺は嫌だよ! っていうか梓は志吹目当てなだけじゃねぇか!)

(えへへっ)


 すると、スマホが振動した。画面には「桜ヶ丘あすみ」の文字。連絡先なんて交換していないぞ? 放置しようと思ったのだが、俺の指はひとりでに動いていた。


「はい」

「あの、桜ヶ丘です。今度の土曜日、カラオケに行かない?」

(はっ?)


 そして、またもや勝手なセリフが止まらない。


「別にいいけど。駅前に集合な」

「ありがとう! 当日楽しみにしてるね!」


 そうして電話は切れた。俺は叫んだ。


「梓! これどういうことだ!」

(あー、完全にあすみが攻略しにきてますね)

「校門前でぶつかっただけの男にデートの誘いするか!?」

(乙女ゲームってそういうものです)


 俺は梓とここまでの情報を整理した。


・俺は攻略対象キャラクターである。

・プレイヤーである桜ヶ丘あすみとは定型文しか話せない。

・他の攻略対象キャラクター(西蓮寺志吹)とは自由に話せる。


(梓! これもしかして、話が進んだらあすみと付き合うことになるのか!?)

(まぁそうでしょうね)

(俺は嫌だ! 攻略なんてされてたまるか!)


 冗談じゃない。例えこの世界が第二の人生だとしても、女と付き合うのは絶対に嫌だ!

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