加室英明①

 2012年8月。

 夏休みが明け、始業式の翌日、加室英明が2年3組に転校してきた。


「加室英明です。よろしくお願いします」


 教壇の横で加室が挨拶すると、教室内は一気にざわめいた。

 転校生が来ることを知らされていなかったからだ。

 加室の方も急な転校だったのか、制服が間に合わず、前の学校のブレザーの制服を着ていた。


 S中学校の男子制服は学ランなので、ブレザー姿の加室が不思議と垢抜けて見えた。 


「わぁ~、都会から来た転校生って感じ…」


 千穂の後ろの席の女子がつぶやいた。まさしくそんな感じだった。


 加室は長身ですらっとしていて、整った顔立ちをしていた。髪色が薄茶色で少し長くてさらさらで、このへんの田舎では見ない雰囲気の男子中学生だった。


「今日の日直は、賀上か…。賀上さん、あとで加室君に校内を案内してあげて」


 先生がそう言うと、賀上は「はい」と返事をした。

 千穂も黒板を見て、今日の日直は賀上だと気づいた。


「席も隣だし、いろいろ教えてやってな」


 加室の席は賀上の隣になった。

 この時点で千穂はなんとなく嫌な予感がしていた。


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